日録  故若松丈太郎さんに

いつまでも静かに続く山脈の
いつまでも静かに鼓動する海原の
だれもが受け入れたのではなかったにせよ
人の営みであるならば佇む
背中は微動もしないで中天を見上げ
生きようが下手な生きものらしい
積み上げられる悲しみと燃えつづける塔
の棺に晒される土地は
それぞれの思いをかかえて
重なりあう傷口にまで沁みていく
のだとまだ届きえない思いの
騙された悔しさは一生つきまとう
小さな光をやわらかく掬う
汀まで流されるさらに先の先に屈み
日中も人気がない不気味な街に
会わない人のためにいくつ
もの忘れられた想いをぐびぐび飲む
こどものころに暮らしたわたしの町は
いつまでも静かに続く道筋のいつまでも
静かに鼓動する崩落の
だれもが受け入れたのではなかったにせよ
なおかすかに残る片言の営み
の先端に途切れなく綴られる儚い
こころのゆたかさが見える
足跡の連鎖へと塔の棺から滲みだす
時の歪みに浸される陰影は
もうこんなことがないようにと
より深い層のまだ癒えぬ傷口まで
沁みていく限りない悲しみの
ひとがつくりだしたものが
皮膚の表はやわらかく掬う耳骨から
伝わる悲鳴の反射へと聳え
たくさんのひとが死んだ
大切な忘れられた想いを辿りつつ
深い地の底の開かぬ眼に淀む
なによりも制約がないのがいい
いつまでも静かに続く刹那
のいつまでも静かに鼓動する永遠の
だれもが受け入れたのではなかったにせよ
数歩手前で綴られるさらに
深い悲しみならば人に営まれる脆い
どうしようもない生きものにちがいない
流れに揺らぐ足跡の連鎖の綻びに
散り散り砕ける夜の汀に萌す
ほとんどなかったに等しく
傷口まで沁みていく弱りつづける身体
は違う思いを語る地平の
生きものが住めないところを
いつまでも騒めく耳骨から
漏れ落ちる騒音の遥かな外れに潰え
もうこんなことがないようにと
いまだ開かない眼に囁きかける今生の
贈り物としてささやかな

※3、6、9行と3行ごとに、若松氏の遺作『異俘の反逆』より引用しています。

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