第4回 守ろう、世界の子どもたち

 このごろ人間にとって真の豊かさとは何だろう、とつくづく思います。SDGs(エス・ディー・ジーズ)。「貧困をなくし、飢餓を撲滅して全ての人に健康と福祉を」といった国連が掲げる持続可能な17の開発目標を全てクリアすれば、それに越したことはないのですが。言うは易く行うは難しとは、このこと。では、どうすればよいか。
 簗石日(ヤン・ソギル)氏が書いた「闇の子供たち」という文庫本を最近、読みました。タイの山岳地帯などアジアの貧困社会で密売組織により10歳前後の少年少女が売り買いされ、世界中の富裕層を相手に売春までさせられている。そればかりか、少年少女の内臓までが臓器移植のために売買されているという悲惨極まる物語でした。バンコクの社会福祉センターでNGOとしても働く日本人女性を含めた人々がこうした密売組織など社会の底辺に横たわる「悪」を洗い出し子供を助け出そうとはしますが。結局は、こうした組織に加担する軍や警察などの前に何も出来ないで終わる悲しい内容でした。

 そして。これとは別に目にしたのが東京新聞(中日新聞)の8月22日付サンデー版大図解「児童労働」でした。それによると、世界で貧困のため働かざるを得ない児童数は2020年には1億6000万人に達し、実に世界の子どもの10人に1人という深刻さが示されていました。しかも急拡大するコロナ禍の影響もあって、このままだと2022年はここ20年間で初めて増加に転じ1億6890万人に及ぶというのです。皮肉なことに2021年は国連が定めた「児童労働撤廃国際年」でもあり、児童労働の撤廃が声高く叫ばれている時でもあるだけに、これはショッキングな話です。
 働く内容は、家族と野菜やバナナを売ったり、レンガの製造や自動車の修理をしたりとさまざまです。農林水産業が7割を占め続いてサービス業が2割、工業が1割で、7割が主に家族農業や家内工業など家庭内で働き、児童労働者の割合となると農村部で14%と、都市部の5%に比べ約3倍もの差が指摘されています。
 ここで国連の「子どもの権利条約第32条」を見てみましょう。そこには「児童が経済的な搾取や教育の妨げ、健康、精神的、道徳的もしくは社会的な発達に有害となる労働から保護される権利」とあります。この子どもの権利条約に照らせば、私が読んだ「闇の子供たち」に登場する少年少女は当然、保護されてしかるべきです。

 そういえば、このところ「SDGsを子どもに伝える」ことの大切さを強調する各マスコミの論調が目立ちます。気候変動など地球規模の社会問題に対して未来を担う子どもたちに問題意識を育てることが狙いのようです。東京オリンピックに続き、先月24日には「共生社会の実現」を謳い文句としたパラリンピックも始まり、開会式での難民選手団らの誇らしげな行進には私自身、胸打たれました。歩みはのろくとも一歩、一歩前に向かって進もうではありませんか。 (2021/9/2)

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