連載 原発の蔭と影 第7回 中部電力の強引な姿勢 天瀬 裕康

 北海道から始まり東北関東が少し長くなりましたので、東海・中部へと下がってみましょう。
 私は名古屋とは多少の縁があります。大学院時代は組織培養に関して名大医学部日比野内科と交流があり、勤務医時代には心電図自動解析の件で名古屋の検診センターを頻回に訪れたものですが、名古屋の人たちのプロ野球・中日ドラゴンスに対する熱狂ぶりは、広島のカープ・ファンに似たものがあり、規模は大きいけれど地方都市という印象を持ったのでした。
 さてその名古屋に本拠を置くのが中部電力、地元の人は「中電ちゅうでん」と呼んでいますが、広島では中国電力が「中電」。この混乱を防ぐため、株式市場では名古屋を中部電、広島を中国電として区別していますので、ここでも中部電を使わせてください。

 中部電力株式会社、中部電は日経平均株価の構成銘柄の一つ、名古屋財界御三家の一つで実力をかわれている総合エネルギーサービス企業です。
 1957年、火力部内に原子力課を置き、重電メーカーの日立製作所、東芝、三菱重工業と共同研究を行い、66年には原子力推進部に格上げして体制を強化しました。
 1967年1月、中部電は静岡県小笠郡浜岡町の町長や有力者と接触、これが7月に新聞の報じるところとなり、それを契機として浜岡町も積極的な対応をするようになりました。ところが 隣の御前崎おまえざき町の漁民は、被爆した第五福竜丸の母港が近くの焼津やいずだったせいもあって、原発には反対です。森進一が歌った「港町ブルース」の三番後半の歌詞 <後ろ姿も他人のそら似/港 三崎 焼津に 御前崎> とあるように近い場所なので、反対するのも無理はありません。しかし中部電が30億円の金を住民組織に出したとか、1969年には同意を取り付けました。
 通産省も1970年には認可を出しました。沸騰水型軽水炉で71年には建設場所も決定、さあ出発です。ちなみに浜岡町という名は、浜松と静岡の間に位置していたからだそうで、2004年には浜岡町と御前崎町が合併して御前崎市になったため、「浜岡原発は御前崎市にある」と表現されるようになりました。
 こうしてできた浜岡原発は、1号機から5号機までずらりと並べていましたが、他の原発と同じように、事故・トラブルは多発しますし虚偽申告も見られます。1991年には3号機で原子炉の給水量が低下していますし、2001年には1号機の配管が破断しています。
 中部電は2019年5月25日、南海トラフ巨大地震が起きた際に浜岡原発に押し寄せるであろう津波につき、従来より厳しい条件で試算すると、最大22.5メートルになる結果が出たと発表しました。従来の想定は21.1メートルで、22メートルの防波堤は建設済みですが、津波が上回ることになりますが、これに対する対策は立てておりません。
 こうした足取りを眺めておりますと、東京・大阪を除く地方の電力会社の中では、抜群の力を持っているように思われます。日本原燃は、原発を持つ大手電力9社と原発専業の日本原電が大半を出資する原子力関連企業で、その幹部の多くは東電出身者が占めていますが、2018年当時の会長は中部電力社長が務めており、この年の1月8日、経営支援を縮小しました。
 電力会社の体質を現したものとしては、昨年から問題になっている顧客・事業者情報の不正閲覧があります。これによって大手十社以外の、新電力や再生可能エネルギーの利用状態が掴めて対策が立てられるなら、電力自由化が無効になる可能性があります。もちろん中部電も、 不正閲覧をしておりました。
 さらに中部電はこの3月、中国電や九電とともに関電と事業者向け電力販売でカルテルを結んでいたことを、公正取引委員会(以下、公取委と略す)から指摘され、公取委は中部電と販売事業会社の中部電力ミライズに、独禁法に基づく計約275億円の課徴金納付命令を出しました。中部電の水谷副社長は「関西電力との間で、営業活動を制限するような合意はしていない」とし、公取委が違反行為の実行期間とした2018年11月から2020年10月の間、中部電の関西エリアにおける大口の高圧・特別高圧の契約電力が約3倍に増加したのは、「独自の戦略で営業活動をしてきた」と強調、「価格を意図的に上下させたことはない」とも語っています。
 政府の規制改革推進会議作業部会は4月28日、大手電力が電力販売で独禁法違反のカルテルを結んでいたことから、発電と小売りの分離を定める提言を発表しました。電力の小売り自由化後も大手電力は、地域での独占を前提とした経営をしているのです。そこで政府の作業部会は経済産業省に、発電と小売りを別会社にした上で資本関係を解消する、所有権分離の検討を促したのです。
 大手電力各社は現在、発電・送配電・小売りの間に資本関係を保っています。作業部会はここにも問題があるとみているのですが、今回の提言にたいしても大手各社の反発は必至で、実現するかどうかはか分かりません。
 中部電は、課徴金納付命令を出した公取委の決定を不服として、「準備が整ったら速やかに東京地裁へ提訴する」と発表、抗う姿勢を示しました。
 それにしても電力会社は、なぜこんなにも強いのか、驚くばかりです。

買収に三十億の金動く どれだけ儲ける心算なりや
したたかさ電力会社の特質か 課徴金にもあらがう姿勢
ここあそこ不正閲覧ばれてきて 役員報酬 自主返納す        

(2023年5月14日)

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