連載 文士刮目 第24回 脱原発とマスク着用。真の平和、健康で幸せな世の中とは 伊神 権太 (ドイツの脱原発完了のニュースは新聞各紙でも大きく取り上げられた。脱原発を巡る各国の動きも気になるところだ=15日付中日(東京)新聞【核心】から)

 新聞やテレビなど各メディアの報道によれば、ドイツで東京電力福島第一原発事故を教訓に決めた【脱原発】が、ことし4月15日に完了。稼働中の最後の原子炉3基が同日夜(日本時間16日朝)、送電網から外れて運転を停止、ドイツ国内の原子力発電量が、いよいよゼロになった、とのことです。福島第一原発事故後に【脱原発】が実現するのは、先進7か国(G7)では、もちろん初めて。ドイツは、こんごは岸田政権による〝原発推進〟とも見られがちな日本とは一線を画して、再生可能エネルギーへの道をヒタ走るとのことです。

 そのドイツですが。ドイツでは2002年に環境保護政党「緑の党」を含む左派連立政権が2022年ごろまでに全原発の運転を停止する法律を成立させ、脱原発への扉を世界でもいち早く開いたいきさつがあります。この間、2010年にはメルケル前首相が諸事情からいったんは〝脱原発〟の先送りを決めはしたものの、その後2011年に日本で起きた東日本大震災に伴う福島第一原発事故の教訓を受け、17基の原発稼働を2022年末までに停止する脱原発を改めて宣言。今回のドイツの【脱原発完了】はそうした過去の経緯を踏まえて試行錯誤の末に実現、いよいよ本物の脱原発社会実現への扉が開かれたというわけです。
 かといって、最近の世論調査によれば、ドイツ国民の間では「地球環境を守る面からも有効なはずの原発をなぜやめてしまうのか」と原発停止には反対する国民が半数以上いることも事実です。この点については意見が分かれるところではあるのですが。少なくともこれ以上の原発事故発生だけは避けなければといった考えは国民に共通している、といって良いかと思うのです。具体的にはドイツの発電量に占める原発割合は2010年の22%から2022年には6%に減少。今回の運転停止で原発依存からの完全脱却が進行。こんごは発電量の46%をまかなう再生可能エネルギーを2030年には80%にまで増やし、現在3割を占める石炭の割合も減らし、脱原発と温暖化防止策の両立をめざす、としています。

 原発は確かに地球環境保全の面からは有効でしょう。でも、いったん事故が起きてしまってからでは遅いのです。過去に起きたチェルノブイリや福島原発事故のような目を覆うほどの地獄絵図、悲惨さに人類が陥ることは間違いありません。それだけに、人類の英知が試される一つの試金石こそが、今回のドイツの思いきった【脱原発完了】といってよいでしょう。原発であれば、石炭など他の化石燃料に比べ、確かに二酸化炭素追放など地球にやさしく環境浄化に役立つことは確かです。でも、人類の究極の目的である「安全」と「幸せ」「健康」が保たれるか、となると不安で悩ましいところです。では、私たちは一体全体どうしたら良いのか。
 実際のところ、あと何年の間、原発は安全に保たれるのでしょう。不安感にがんじがらめになり、心配してばかりの生活を過ごすくらいなら、そこはきっぱりドイツのように【脱原発完了】の道を選択した方がよいのでは。そんな考えに日々うなされる人々は多いに違いありません。

 コロナ禍が収束に近づいた今。マスクの常用も原発立地も自慢出来るものではない。どちらも表面的に見る限り、安心できるように見えはするのですが。いや、そうだろうか。やはりコロナ禍のない社会。原発事故のない平和で安全な世界をめざす限り、人間本来の幸せのためにも私たちは、こんごどんな道を選択し、歩んでいったら良いのか。答えはそこに尽きる気がします。実際、「平和」は、その場限りの対応では決して維持できないのです。原発事故だけは避けたい。だったら、原発はない方が良いに決まっている。でも、原発は現に存在し、人類に役立っている。だとしたら。何はともあれ、安全最優先に徹してほしい。私には、そう思えてならないのです。(2023/5/5)

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