隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第16回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:3月11日、東電刑事裁判で被告の無罪が確定してしまった。
β:東京電力福島第一原発事故の責任を問う裁判だね。異議申し立て期限の11日に断念されるのを見越して5日に決定を出したのではと思いたくもなるよ。
 裁判は、2011年3月の東京電力福島第一原発事故から1年後の6月、福島原発告訴団が第1次の告訴をおこなったことから始まった。東京電力役員、官僚、学者ら告訴された全員を東京地検は不起訴としたんだけど、検察審査会は二度にわたり東京電力の元会長ら3人については起訴すべきと議決した。避難を強いられた中で双葉病院の患者44人を死亡させたことや、水素ガス爆発で飛び散ったがれきにより東京電力社員に傷害を負わせたことなどが業務上過失致死傷罪に当たるとしたものだ。2016年2月、検察官役の裁判所指定弁
護士が被告3人を東京地裁に強制起訴した。
γ:地裁では、原発の敷地の高さを超える津波が襲来し、建屋が浸水して電源喪失が起き、爆発事故などが発生する可能性を事前に予測できたにもかかわらず防護措置・原子炉停止などの対策をする義務を怠ったことが、地震学者や東京電力社員らの証言であきらかになった。ところが2019年9月の判決は、地震調査研究推進本部の長期評価を、3・11「までの時点においては、客観的に信頼性があるとみるには疑義の残るものであった」として、社員が求めた対策を常務会で承認していながら先延ばしにして退けた被告らの責任を不
問にした。
α:それを東京高裁も最高裁も追認したんだね。
β:最高裁判所第2小法廷は、3月5日付で武黒一郎、武藤栄両被告について上告を棄却する決定をした。勝俣恒久被告は24年10月に死去していたことから公訴棄却となった。
γ:最高裁判所第2小法廷は、22年6月17日、事故被災者が東京電力とともに国を相手どって損害賠償を求めていた4件の集団訴訟で判決をおこなった裁判体だ。4件中3件で国の責任を認める高裁判決が出ていたのを裁判長の菅野博之と草野耕一、岡村和美の3裁判官がひっくり返し、国に責任なしとした。三浦守裁判官だけが、詳細な反対意見を付している。その三浦裁判官は、刑事訴訟では審理を回避し加わらなかった。検察官だった時に事件処理に関与したからというんだ。菅野博之は退官し、尾島昭が加わり、岡村和美が刑事裁判では裁判長を務め、草野耕一、尾島昭と3裁判官の全員一致での決定となった。地震調査研究推進本部が出した長期評価は津波襲来の現実的な可能性を認識させる可能性を備えた情報とは認められないなどとした決定に、三浦裁判官が加わっていればきっと綿密な反対意見を付けただろうね。
β:判決後の記者会見で、被害者参加人ら代理人の河合弘之弁護士は「『君、回避したらどうか』みたいな圧力がかかったのではないかと邪推したくなる」、同海渡雄一弁護士は「判決に加わるべき人が回避し、回避すべき人が回避せずに行われた判断だ」と述べていた。
γ:回避すべき人とは、東京電力との密接な利害関係を指摘される西村あさひ法律事務所の元代表パートナーの草野裁判官を指す。福島原発刑事訴訟支援団は、公正な裁判を受けるため、同裁判官の審理回避を求める署名を最高裁に提出してきていた。その草野裁判官は補足意見でもっともらしく事故を避けることができた方法(審理対象外)に言及したりして公正を装いつつ、国のエネルギー政策やらを持ち出して上告棄却を正当化している。
β:福島原発告訴団と福島原発刑事訴訟支援団は、3月6日付「東電刑事裁判、最高裁の上告棄却決定に抗議する声明」でこう言う。「人災事故を引き起こし、国民の生命と財産を窮地に陥れ、甚大な被害をもたらしながら、原子力発電事業者は何らの責任も問われず免責されるという法的前例をつくり、むしろ、新たな原発事故を準備するものです」。

α:甚大な事故を起こしても刑事責任は免れるという無法のメッセージに思えるね。憤りを禁じえないな。
 柏崎刈羽原発の再稼働を問う新潟県民投票条例案が4月18日に県議会で否決されたのもひどい。
β:賛成16・反対36と、自公、保守系が大多数を占める議会構成そのままの結果だ。条例制定を求める署名活動が始まったのは、24年10月28日。署名数は15万筆を越えて法定必要数の約3万6千筆を大きく上回り、そのうち有効とされた14万3196筆で25年3月27日に知事に直接請求をした。知事は4月8日、「その意義を大変重く受け止めるものである」としながら、「『賛成』又は『反対』の二者択一の選択肢では、県民の多様な意見を把握
できない」などの意見を表明、その意見を付けて、請求された条例案を16日の議会臨時会に提案した。
γ:「柏崎刈羽原発再稼働の是非を県民投票で決める会」が「条例案に付された知事意見について」を発表している。特に大事な点を引用しておきたい。
「今、知事が政府から求められているのは、再稼動要請に同意するかどうかの二者択一である。これに対し、投票条例の趣旨・目的に賛同する 14 万3千余りの署名者の想いは、その『知事の判断』の前に、単なる『意向調査』ではなく、『自分たちの意思を投票で表明したい』というところにある。条例案や 14 万3千余筆の署名者が求めるのは、『投票』による『主権者としての権利行使』である」。
β:「決める会」の事務局は条例案否決を受けて、「かつてない関心の高まりを明日につなぐことを決意します」とするコメントを会のホームページで発表した。「残念ながら条例案は否決されましたが、署名された14万3196筆の想いは消えることはありません」と。
α:その通りだね。再稼働なんてとうてい許されない。

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