隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第11回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:科学技術政策方針を示す「統合イノベーション戦略2024」が閣議決定されたね。核融合発電は30年代実証達成をめざすと。
β:AIに次ぐ重要技術だそうだ。ただし、まだ「新たな産業の芽となる技術」で、実用化段階には程遠い。そこで「世界に先駆けた 2030 年代の発電実証の達成に向けて、必要な国の取組を含めた工程表を作成するなど、フュージョンエネルギーの早期実現を目指す」と言う。
γ:「核融合」という言葉は出てこない。「フュージョン」だ。3月29日に設立されたフュージョンエネルギー産業協議会も「フュージョン」。4月15日付電気新聞の匿名コラムは「まさかそれが目的でもないだろうが、これまでの経緯を知らない若い世代に、『核融合』を『フュージョン』と呼び変えることで、あたかも実用化間近のように錯覚させかねないギリギリの表現であるように思える」と書いていた。
β:フュージョンエネルギー産業協議会は5月21日に設立記念会なるものを開いていて、盛山正仁文部科学大臣、高市早苗内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)が来賓挨拶をしている。22日の「ビジネスインサイダー」は、こう歌い上げた。「三菱商事や三井物産、住友商事といった総合商社から、古河電気工業やフジクラといった大手メーカー、日揮に清水建設などのプラントエンジニアリングに長けた大企業。さらに、科学技術を社会実装するために大学や研究所を起点に生まれた数々のスタートアップ企業——。規模も業種も違う民間企業が、『世界と戦える核融合の実用化』の名の下に集結した」。
γ:またぞろ何度目かの核融合バブルが起きている。その内実はどうなのかね。さっきの電気新聞の匿名コラムは、こう続けていた。「1980年代に『21世紀の技術』と期待された核融合の実用化時期がいまだに見通せず、『22世紀の技術』となるかもわからなくなっている現実を専門家が知らないわけはない。核融合炉の実用化が目的かのように錯覚させるのはやめ、現実にニーズのある要素技術の開発・実装で日本のものづくりの技術基盤を堅持する、なら納得できるし、もっと幅広い賛同も集まるのではないだろうか」。
 新しい核融合ブーム、もといフュージョンブームは「スタートアップ」が中心で、そこに旧世代は違和感があるらしい。
α:スタートアップって?
β:NTT東日本のホームページに載ってたコラムでは、「革新的なビジネスモデルによって社会に変革(イノベーション)をもたらす企業のこと」だけれど、「実際の『スタートアップ』は、社会的革新をもたらすことで、短期間で数千億円単位での企業価値を実現しうる急成長企業のこと」と説明されている。
γ:「カーボンニュートラルを目指す時代に核融合スタートアップが世界的に急増していることは興味ある社会的現象だ」という地球環境産業技術研究機構の山地憲治理事長も、「核融合炉開発の長い歴史の中で、最近顕著な技術的ブレークスルーがあったとは思えない」と懐疑的だ。「背景には核融合への大きな期待があるが、私は危うさを感じる」(2023年10月2日付電気新聞)と。山地も「フュージョン」は使わない。「核融合」派だ。
β:以前にも紹介したことがあるけど、松浦祥次郎原子力安全研究協会理事長は2023年10月18日付電気新聞で「核分裂炉でかなり辛苦を経験した技術者達には、現在起きている公的事業及び民間事業の核融合炉推進高揚感が工学的・技術的視点から全く理解できない。実用を計画するには、開発上の不可避的ギャップを完全に克服できる決定的な工学的・技術的イノベーションの達成が不可欠である」と、まさに世代間ギャップ丸出しだった。
α:それだけ「フュージョン」派に信は置けないということだね。勢いはあるけど実績は皆無なんだから。
安全性という点ではどうなの? 原発より安全だ、クリーンだって宣伝されてるけど。
β:大きな事故のときに出てくる放射能で比べれば、原発より少ないことは確かだろう。ただし、大きな事故は起きないとも言えない。日常的な放射能漏れは原発を上回りそうだ。それに、強い放射線が当たって機器が放射能を持ってしまうため、放射性廃棄物も原発よりさらに多く発生する。発生当初はとくに放射線レベルが高く、人が触れれば死に至るような危険きわまりないものだ。
γ:後に原子力委員長となる藤家洋一名古屋大学プラズマ研究所教授は、1980年8月7日に研究所で開かれたシンポジウム「核融合炉設計と評価に関する研究」の報告集にこう記していた。「核分裂発電所と核融合発電所を同じ条件のサイトに建設したとすると、どちらが安全かと聞かれると答えに窮する。“良く分りません”と答えるしかない。全然分らないかと聞かれたら“事故時については核融合炉の方が楽かな、通常時については核分裂炉の方が楽かな”と小声で答えることになるだろう」。
α:そうなんだ。
β:一方ではトリチウムの不足問題がある。2023年10月19日付日刊工業新聞で小林健人記者が「トリチウムは核融合発電に必須でありながら、供給が一部地域に限定される。今後は供給量が減っていくことが予想されており対策が求められる」と報じていた。原子炉でトリチウムをつくればいいという話もあるとなれば、原発と比べてどうこうなんて言っていられなくなる。トリチウムを使わない方式もあるとはいえ、実現の可能性は低い。
γ:1994年11月号の『原子力工業』で、当時の日本原子力研究所の平岡徹特別研究員がこう漏らしていた。「核分裂炉はいくつかの神の恩寵のおかげで、ごく自然に短期間で成立した。一方、核融合炉はいわば神に逆らった力づくの技術で、その開発に巨額の費用と長時間を要している」。それから30年、神の恩寵は未だ現れてはいないようだね。

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