α:2024年も押し詰まった12月27日、エネルギー基本計画の案が公表された。
β:第7次エネルギー基本計画、GX2040ビジョン、地球温暖化対策計画の各案そろってね。いずれも突っ込みどころ満載だ。まずはエネルギー基本計画案について見るとしようか。
第6次計画に記された「再エネ最優先の原則」も「可能な限り原発依存度を低減する」との記述も削除された。その上で「再生可能エネルギーと原子力をともに最大限活用」と言う。
1月7日付電気新聞で円浄加奈子編集局長は、「環境に傾き過ぎていた『S+3E』のバランスを安定供給第一に引き戻した」と評価し、「産業の視点、現実解導く」と見出しにうたった。
α:「S+3E」って?
β:エネルギー政策の基本的視点で、「我が国のエネルギー政策の要諦は、安全性(Safety)を大前提に、エネルギー安定供給(Energy Security)を第一として、経済効率性の向上(Economic Efficiency)と環境への適合(Environment)を図るという、『S+3Eの原則』にある」そうだ。
γ:3Eはもともと対等じゃなくて、「エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし」なんだ。おまけに第7次案では、環境適合性について「エネルギー安定供給や経済効率性とのバランスを踏まえ、脱炭素エネルギーを利用する国民や産業界の理解を丁寧に得ながら進めていく必要がある」と制約を付加した。
α:それを「環境に傾き過ぎていた『S+3E』のバランスを安定供給第一に引き戻した」って言うんだ。そもそも環境に傾き過ぎてなんていなかったでしょ。
β:「関連資料」として付された「2040年度におけるエネルギー需給の見通し(暫定値)」では、電源構成の4~5割程度を再生可能エネルギー、2割程度を原子力、3~4割程度を火力としている。第6次の時の原子力比率は2030年度で20~22%とされていたから、「同程度」あるいは「抑えられた」と見る報道があったけど、実は発電電力量の見通しが2~3割近く増えているので、原子力の発電量も2割程度、原発数基分の増となるんだ。でも、そんなことできっこないよ。
γ:新増設については、GX基本方針で「廃止決定した炉の次世代革新炉への建て替え」とあったのを「廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での」建て替えと変えた。たとえば玄海原発で廃止した代わりに川内原発で次世代革新炉を建てることが可能となる。新規立地は認めていないようだが、次の文言の「その他の開発」として可能だと、12月18日付電気新聞は書いていた。「その他の開発などは、各地域における再稼働状況や理解確保等の進展等、今後の状況を踏まえて検討していく」。上関原発は、そこに含まれるという。
β:そうは言っても実際に電力会社が新増設に踏み切るかといえば、具体性はない。エネ基案も「大型電源については投資額が巨額となり、総事業期間も長期間となるため、収入と費用の変動リスクが大きく、電力自由化を始めとする現在の事業環境の下では、将来的な事業収入の不確実性が大きい。こうした中では、長期の事業期間を見込む投資規模の大きな投資や、技術開発の動向、制度変更、インフレ等により初期投資や費用の変動が大きくなることが想定される投資については、事業者が新たな投資を躊躇する懸念がある」と認めている。
そこで「これらのリスクや懸念に対応し、脱炭素電源への投資回収の予見性を高め、事業者の新たな投資を促進し、電力の脱炭素化と安定供給を実現するため、事業期間中の市場環境の変化等に伴う収入・費用の変動に対応できるような制度措置や市場環境を整備する」と言うんだけど、消費者へのリスク転嫁という批判があるから具体的なことは記載しない。
γ:金融機関・投資家にとっても「事業者に対して融資・投資を実行することへのハードルが高まってきていることが指摘されている」と書かれている。「民間金融機関等が取り切れないリスクについて、公的な信用補完の活用とともに、政府の信用力を活用した融資等、脱炭素投資に向けたファイナンス円滑化の方策等を検討する」と。
β:地元の同意も大きなハードルだ。GX2040ビジョン案では、具体的に書かれてないけど「脱炭素電源とされる原発や洋上風力の周辺に進出した大規模な半導体工場やロボット技術の企業などに対して、電気料金や税負担の軽減などを検討するとしています。原発周辺に企業が進出することで雇用の増加などの地域経済の活性化を図り、再稼働が進まない自治体においては、『地元同意』につなげたい考えがあるとみられます」(12月26日の日テレニュース)などと報じられている。
γ:原発大推進のムードづくりにはなっているだろうね。しかし、現実解にはほど遠いよ。
もうひとつの夢物語は、いつまでたっても竣工できない六ヶ所再処理工場。「中間貯蔵施設等に貯蔵された使用済燃料は六ヶ所再処理工場へ搬出するという方針のもと、そのために必要となる同工場の安全性を確保した安定的な長期利用を進める」と非現実的な辻つま合わせまで持ち出した。さらには、使用済みMOX燃料の再処理技術を確立して「その成果を六ヶ所再処理工場に適用する」との妄想まで。
α:あらゆる意味で無理無駄な、破綻した問題の先送りをいつまで続けるつもりなんだろう。
- ホーム
- 投稿一覧
- 西尾獏「げんぱつあくぎょうはなし」 連載
- 隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第14回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)