北陸地方の電力事情 天瀬 裕康

 北陸地方といえば、普通は福井・石川・富山・新潟四県の総称ですが、奇妙なことがいろいろあります。福井県は主に北陸電力のエリアですが、前回述べた西の方は関西電力の範囲です。
 北陸電力 Hokuriku Electric Power Company は富山市牛島町に本店を置く電力会社で、略称は「北電」ですが北海道電力と区別するため、「陸電」とも言いますし、株式市場では「北陸電」と呼ぶこともあります。資本金は1176億4100万円、周波数は60ヘルツ(Hz)です。
 発端は1899年の富山電灯からで、1951年に北陸電力㈱が発足しました。富山県・石川県は中部山岳地帯に接しており、戦前から水力発電が盛んなので戦後の電気事業再編時にも、北陸電力は他のブロックから独立した企業として成立したのです。ただし戦後は、黒部川に建設された水力発電所の大手が関西電力に引き渡されたので電力が不足しましたが、多数の水力発電所を建設し、火力発電所の開発も進めたので電力は豊富になりました。それで北陸電力は、かつては原子力発電を認めない方針をとりましたので、全国にみて遅い導入になりました。石川県羽咋(はくい)郡志賀町の志賀原子発電所1号機の発足は1993年、2号機は2006年です。これにより関西電力や中部電力に売電し収入としましたが、原発なしで押し切ったらユニークな電力会社となったのに、残念でした。
 ともあれクロヨン(黒部第四)ダムなど中部山岳地帯の開発は、素晴らしいものがあります。文芸作品としては木本正次の『黒部の太陽』(1964年)が記憶に残っており、石原裕次郎主演で映画にもなりました。2008年には渡辺医院の従業員旅行で黒部方面から能登へ回りましたが、その能登半島の東側根元の部分までは富山県で、昔は「越中富山の万金丹」と製薬が盛んでしたし、今も北陸の中では最も工業がすすんでおります。
 半島の先の部分を含めて西側の大部分は能登の国・石川県です。加賀百万石の城下町・金沢は県庁の所在地なのに、空襲を受けなかった珍しい都市です。年配の人なら旧制第四高等学校をご記憶でしょうし、兼六園と武家屋敷、茶屋町など伝統を感じさせますが、能登の国に行けば原発に出くわすという次第。もともとは中部電力との共同で、半島の突先にある珠洲(すず)市に原発が予定されていましたが、これが凍結されて西南の志賀町赤住(あかすみ)に建てられました。ところが、原発の営業をしだしてからは、北陸電力も嘘つきになったようです。
 1999年6月18日に1号機で臨界事故が起きましたが、2007年3月15日にこの事故が明るみに出て、隠蔽したと批判を受けました。悪質度は割と軽いように思われますが数件ほど見られますし、活断層の問題も充分解決できておりません。詳しく書けば相当のスペースを取りますので、新潟県の事情にチョッと移らせて下さい。
 新潟県は中部地方に入れられることもあり、天気は関東甲信越として報じられ、電力は東北電力で50ヘルツですが、日本海最大の島である佐渡市と県南西の糸魚川市の一部は北陸電力の60ヘルツが入っているのです。私たちが使う電気、コンセントから取る電気は交流ですから直進でなく波を打っていますが、その周期を1秒間に繰り返す回数が周波数であり、ヘルツという単位で表すわけです。北アメリカでは60ヘルツ、ヨーロはッパを含めロシア・中国など他の国々では50ヘルツを使いますが、ヘルツ数が国内で違うのは日本くらいのものでしょう。地質学者で和光大学教授の故・生越忠(おごせ・すなお)は、編著書の中で「能登原発はやっぱり危ない!」と書いていますが、有事のさいに不都合は起こらないのでしょうか。
 この新潟県の西蒲原郡巻(まき)町(現・新潟市西蒲区巻町)に東北電力が原子力発電所を建てようとしているのを素っ破抜いたのは、1969年6月3日付『新潟日報』でした。この新聞社に私は、ジュノー博士(廃墟の広島に15トンの医薬品を持参した赤十字国際委員会の外科医)の再来日時の件でいろいろ情報を頂いたものですが、東北電力は2年後の1971年5月に巻原発の構想を発表、これに対して住民の反対運動が起こり、1996年8月4日に住民投票が行われ、この結果を受けて計画は撤回されました。これは最初の成功例と思われます。
 さて国連事務総長の面談もむなしく、ロシアはますます西側への攻勢を強めてきています。杞憂に過ぎないかもしれませんが、極東ではウラジオストックから日本海沿岸側への侵攻がないとは言い切れません。
 原発愈々危険乎! 私たちは何を書くべきでしょうか。
  富山・石川、持続可能のエネルギー本拠となりてあらまほしき地
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  原発の群れ怖ろしや更になお核弾頭におののく今日・明日  (2022.8.8.)

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