森詠の2023沖縄報告
いま沖縄で何が進められているのか?

一、2・26抗議集会

 ロシアがウクライナに侵攻して一周年にあたる二月二十四日、私は沖縄の地を訪ねていた。
 二月十一日「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」(共同代表ダグラス・ラミス)から、沖縄県庁前広場で開催される2・26集会に向けての緊急のアピールが出されていた。
 ダグラス・ラミスは、元アメリカ海兵隊員で、ベトナム戦争の退役軍人である。ダグはベトナム戦争の最中に退役し、日本や沖縄に滞在し、小田実のベ平連に参加して反戦運動をしていたアメリカ人平和活動家だ。七○年代のことだから、もう半世紀も前のことになる。私は当時、ベ平連に加わっていたので、ダグとは旧知の仲だった。
 ダグたちのアピールは、米国政府と日本政府は台湾有事に備えて、南西諸島をウォーゾーン(戦争地域)に指定し、沖縄など南西諸島にあいついで自衛隊のミサイル基地を建設している。いま反対の声を上げなければ、沖縄は台湾有事に戦場になる、という悲痛な訴えだった。
 私は沖縄の美しい海や浜辺、離島の素朴な生活や緑溢れる自然が大好きである。昔からの友人もたくさん住んでいる。実は私の息子も、沖縄人になって暮らしている。そんな沖縄を戦場にするわけにはいかない。
 私は2・26集会に参加し、日米政府への抗議の声を上げた。参加者は、主催者発表でおよそ一六○○人。琉球三線の音色に乗って、賑やかな琉球ソングが唄われ、会場は沖縄らしく、朗らかで明るい雰囲気ではじまった。集会には、東京や関西から駆け付けた人もいた。
 集会やデモの様子は、翌日の沖縄タイムスや琉球新報が一面トップで大々的に報じていた。沖縄のテレビ放送もニュース映像を流していた。だが、東京に戻って調べて見たら、朝日がわずかに社会面の隅っこにベタ記事で報じていたのみ。私が見た限りだが、他紙はまったく報じていなかった。沖縄と本土の関心の度合の温度差に、あらためて愕然とせざるを得なかった。

ニ、台湾有事は日本有事ではない

 私は台湾有事を日本有事に直結させてはいけないと思っている。有事とは戦争のことだ。日本有事が台湾有事でないのと同様、台湾有事は、本来、日本有事ではない。
 中国が武力で台湾を併合しようとしたら、おそらく台湾はウクライナのように徹底抗戦するだろう。その時、はたして日本は台湾を助けるために自衛隊を出し、参戦するのか?
 その答はノウである。
 中国軍が台湾だけを戦域とする限定戦争をする限り、つまり日本領域の沖縄諸島にミサイルを射ったり、全面的に攻撃して来ない限り、自衛隊は自衛権を発動することが出来ない。台湾有事は我が国の戦争ではなく、あくまで他国の戦争なのだ。
 では、在日米軍はどうするか? 
 アメリカと台湾の間には、安保条約のような明確な軍事条約はないものの、アメリカは台湾が軍事侵略を受けるのを黙って座視しない。アメリカは、これまで何度もいっているように、自由と民主主義という同じ価値観を持つ民主台湾を見殺しに出来ないだろう。もし、台湾を見殺しにすれば、同盟国は必ずアメリカから離れていく。だから、アメリカは、広く国際世論に訴えながら、単独ででも参戦するだろう。アメリカ単独ではまずいとなれば、アメリカは日本や豪州、ニュージーランド、英国を巻き込み、イラク戦争のように多国籍軍を編成して台湾防衛に乗り出すだろう。
 ともあれ、まずは横須賀を母港とする第七艦隊が出動し、在日米軍は沖縄諸島や日本本土にある、すべての米軍基地を使って、台湾支援に乗り出すだろう。日本はアメリカと軍事同盟を結んでいるので、アメリカ軍の日本にある基地の使用について拒否できない。
 中国は米軍の軍事介入を阻止するため、沖縄や日本本土の米軍基地を叩くことだろう。そうなったら、日米安保条約により、日本の自衛隊も自動的に参戦し、米軍とともに中国軍と戦うはめになる。真っ先に中国軍が叩くのは、南西諸島の日米の基地だ。そうなったら、沖縄諸島は瞬時に戦場になる。島民たちは島の外に逃げ出す暇はない。
 こうした事態になれば、台湾有事は即沖縄有事になり、沖縄有事は否応もなく日本有事になってしまう。
 本土の私たちは、沖縄がいまどういう危険な事態にあるのか、ほとんど知らないでいる。報道が少ないこともあるが、南西諸島は本州から遠く離れた島々なので、あまりぴんと来ない。ニュースを聞いても、まるでよその国のことのようで、我々日本のことなのに実感がないのではないか。
 沖縄有事を考える上で、最重要なキイ・ポイントは、アメリカ軍の戦略構想である。自衛隊は日米軍事同盟において、対等の関係ではない。自衛隊はアメリカ軍の軍事戦略に組み込まれた駒の一つでしかない。
 しかし、自衛隊は「専守防衛」という制約がある。その制約を破って自衛隊が相手に先制攻撃したりすることは出来ないし、してはならない。敵から攻撃されてはじめて、自衛のための反撃が出来るのだ。だから、自衛隊は、いくら反撃するにしても、米軍のように台湾にまで部隊を出撃させることは出来ない。
 中国からすれば、台湾は「内政問題」だから、台湾に戦争を仕掛けても国家間の戦争ではない、といいはれる。それはロシアのウクライナ侵攻と同じいい草だ。中国はこれは特別軍事作戦であり、日本やアメリカに内政干渉するいわれはない、というに違いない。
 攻められる台湾は、自国の存亡がかかった戦いだから、ウクライナ同様に全国民が中国に徹底抗戦するだろう。中国は台湾を陥落させるためは、台湾を背後から支援する日米軍を撃破し、駆逐せねばならない。
 だが、中国も、アメリカや日本と全面戦争する危険は犯したくないので、台湾周辺海域に戦闘要域を限定しての局地戦を挑んで来るだろう。ロシアのウクライナ東部に限定した局地戦のように。その場合、主戦場は確実に南西諸島の沖縄諸島になる。

三、南西シフトの内実

 日本政府防衛省は、南西諸島につぎつぎに自衛隊を配備させ、ミサイル基地を設けはじめた。南西諸島とは、九州南端の大隈諸島から、奄美群島、沖縄諸島、先島諸島、与那国島にかけての1200キロメートルにわたって点在する島嶼群のことだ。こうした自衛隊の配備を、政府は「南西シフト」としている。
 東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター顧問の緒方修氏によると、宮古島、石垣島など先島諸島から、沖縄本島、奄美群島、種子島と馬毛島に至る琉球列島に、近年急速に自衛隊が配置され、各島がミサイル基地化しているという。
 日本政府防衛省は、「南西シフト」はあくまで沖縄島嶼の防衛のためだとしているが、それもあるだろうが、アメリカ軍の思惑は、日本側と違う。
 米軍は中国海軍を第一列島線(先島諸島~沖縄本島~奄美群島)内に封じ込め、太平洋への進出を阻止しようと企図している。そのため、アメリカは日本政府と協議し、自衛隊を南西諸島に展開させ、ミサイル基地化しようとしているのだ。
 自衛隊の「南西シフト」は次の通りだ。
 台湾と一○八キロしか離れていない与那国島は人口一六○○人ほどの小さな島だ。そこに陸自の沿岸監視隊一六○人が配置された。
 晴れた日には水平線に台湾の島影がくっきりと見える。往時から、与那国島の人たちは台湾の人たちと往来があった。私がはじめて与那国島を訪れたのは四十年も前になるが、当時、島には駐在所の警官一人、海上保安官一人、税関の役人一人がいただけだった。信号も一基だけしかなく、牧場にヨナグニ馬が放牧されたのんびりとした平和な島だった。
 その与那国島ががらりと様相を変えた。与那国島と台湾の間の海峡には、中国軍艦艇が往来している。島の高地には沿岸監視レーダーサイトが設置され、対空レーダーも常時稼働している。与那国には、いずれ空自の移動警戒隊も配置されるといわれている。台湾有事になれば、与那国島はいわば最前線になるかもしれない。
 その与那国島の東の約二○○キロにあるのが、石垣島だ。石垣島には、二○一九年三月から自衛隊のミサイル基地建設が開始され、今年二月に正式に陸自の地対艦・地対空ミサイル部隊や警備部隊の六○○人が常駐するようになった。警備部隊という名だが、実体は、日本では「普通科」と呼ばれる歩兵の戦闘部隊だ。
 石垣島の北、沖縄本島との間にある島が宮古島だ。宮古島には、二○二○年三月に陸自の地対艦・地対空ミサイル部隊と警備部隊八○○人が配備されている。島には弾薬庫が設置され、今年三月に弾薬やミサイルが運び込まれた。
 沖縄本島の那覇に駐屯する陸自第15混成団は旅団に昇格され、それに伴い二○二○年九○○○人に増強された。それに先立つ二○一八年には、離島防衛を任務とする本格的な水陸両用作戦機能を備えた水陸機動団が新編されている。
 こうした部隊の輸送や機動展開を確保するため、Vー22オスプレイやC-2輸送機などの導入も計られている。
 那覇基地の空自の南西航空混成団は、南西航空方面隊に昇格した。それに伴い、F-15J戦闘機は四○機に増強された。二○二○年には、警戒航空隊を警戒航空団に昇格させ、翌年には臨時偵察航空隊を新編している。
 海自も那覇基地の対潜哨戒機P-3Cを増やしたり、島嶼戦争用の護衛艦FFMを建造し、八隻態勢にする計画だ。こうした南西シフトを念頭に、いずも型護衛艦二隻を軽空母に改修し、二個空母艦隊を編成する動きも出ている。潜水艦隊も従来の十六隻から二十二隻に増強、護衛艦隊も一個護衛隊増強して、護衛艦四七隻から五四隻態勢にすることになっている。
 相手方の脅威圏外から対処可能なスタンド・オフ・ミサイルの整備や、島嶼防衛用の新型対艦ミサイルや高速滑空弾の研究がはじめられた。多様なプラットフォームからの発射が可能な12式地対艦誘導弾能力向上型の開発も閣議決定された。
 沖縄本島の北に位置する奄美大島には、ミサイル部隊と警備部隊、合わせて六○○人を配備された。さらに北にある大隈諸島、種子島と馬毛島にも、今後一○○○人の部隊を配備する計画になっている。政府は馬毛島を買い上げ、そこに三千メートル級の滑走路の空自基地を建設し、いまは岩国基地で行なわれている米空母の艦載機のタッチアンドゴー (離発着)訓練を行なうことも決まった。
 こうした沖縄諸島での急速な自衛隊の配備や増強、ミサイル要塞化は、日本政府の防衛方針に基づいていることはいうまでもない。
 日本政府は、ウクライナ戦争や台湾有事への国民の危惧や不安につけこみ、強引に安全保障三文書を決定し、反撃能力の保有を謳い、防衛費を二七兆円から四三兆円に大増額するという歴史的大転換を、国会の審議にかけることもなく岸田内閣は閣議決定した。これは安倍政権に勝るとも劣らぬ、国民無視の暴挙である。私たちは、いまこそ、こうした岸田政権に不信任の声を挙げるべきであろう。

四、アメリカのEABO(機動展開前進基地作戦)構想

 では、沖縄についてアメリカ軍は、どういう戦略構想を持っているのか?
 アメリカ軍は、日本政府防衛省とは別に、EABO(Expedition Advanced Based Operations)「機動展開前進基地作戦」という新たな戦略構想を採用している。
 今年一月一二日、ワシントンで、2プラス2の外務防衛閣僚による日米安全保障協議委員会が行なわれた。そこで協議されたのは、沖縄南西諸島の防衛を含め、日米同盟をさらに強化するため、新たに作成された在日米軍の再編計画がEABOだった。
 私は、このアメリカ軍のEABOがくせものだと思っている。日米軍事同盟は、このEABOのプランに則って自衛隊の西南シフト態勢を作っているといっていい。
 EABOは2025年までに、在沖縄第12海兵連隊を改編し、第12海兵沿岸連隊とするという骨子の計画だ。
 海兵沿岸連隊MLR(Marine Littoral Regiment)は、対艦ミサイルなどを備え、離島での戦争になったら、小規模な部隊に分かれて展開し、敵と戦うというものだ。
 この海兵沿岸連隊MLRは、一八○○~ニ○○○人。かつては一万数千人の師団や八千人の旅団が戦闘単位として主流だったが、火力が飛躍的に発達した現代戦では、小部隊でも火力が旧来の大部隊並みなので、戦争の様相が一変した。戦場では小回りが利き、機動力が発揮できる大隊が戦闘単位となって作戦行動する方が有利となった。世界の軍隊は、連隊は約二四○○人、大隊約六○○人が標準だ。
 これまでアメリカ海兵隊は海空の強力な支援の下、敵地に大挙投入される攻撃部隊だったが、それに対して、MLRは小部隊に分かれて、敵地周辺に投入され、敵のミサイル攻撃に耐えながら、対艦対空ミサイルでアメリカ海軍の艦艇を防御したり、味方の作戦行動を支援する役割を担っている。以前の攻撃的な海兵隊の性格をがらりと変えて、MLRは防御支援的な戦闘部隊になっている。
 日本政府は「南西シフト」のミサイル基地や部隊配備を、島嶼防衛のためとしているが、米軍の目論見は別のところにある。
 米軍の目的は、EABOの名前の通り「機動展開前進基地作戦」にある。もし、台湾有事となり、中国軍と戦うことになったら、米軍は南西諸島を丸ごと「遠征前進基地」にして使うということだ。
 しかし、沖縄は日本領なので、米軍が勝手に前進基地を造るわけにはいかない。その米軍の代わりになるのが自衛隊だ。自衛隊が予め南西諸島にミサイル基地や弾薬庫を造ってあれば、米軍はいざという時に、自衛隊基地を「機動展開前進基地」として使おうというプランなのだ。
 海兵沿岸連隊MLRは、EABOの中核となる部隊である。米軍は在沖海兵隊の一部をグアムに移動させ、沖縄全体で海兵隊を一万人程度減らすという再編計画は変更ないとしているが、そうではない。アメリカ政府と米軍当局は、対中国戦略を練り直し、台湾有事を想定して、琉球諸島を「戦争地域」に指定して、戦争準備をはじめたのだ。
 自衛隊に新設された水陸両用作戦を行なう水陸機動団は、こうした米国の海兵沿岸連隊に対応して編成されたといっていい。
 アメリカは太平洋戦争で、島嶼戦の困難さを十二分に味わった。ガタルカナル、サイパン、硫黄島、そして沖縄と、日本軍との死闘を重ね、米軍は勝利したものの、多大な犠牲者と損失を出した。島嶼に立て篭もる敵を武力で駆逐することが、いかに困難なことか、アメリカはよく知っている。さらに、アメリカは玉砕する日本軍を見て、島嶼戦闘が補給なしには戦えないことを教訓化した。
 しかも、たとえ小部隊でも、いったん島に潜入し、立て篭もったら、それを駆逐するには多大な犠牲を払わねばならないことを、アメリカは知った。その教訓は海兵沿岸連隊MLRに生かされている。
 さらに、アメリカは南西諸島のどこかに、中国軍が小部隊であっても、いったん浸透上陸したら厄介なことになると考えた。そうなる前に、自衛隊に要衝となる島々を予め押さえさせる。自衛隊に「前進基地」造りを担わせれば、MLRは機動力を発揮して、その前進基地を使って、中国軍と戦うことが出来る。
 米軍の戦略目標は、第一列島線の琉球弧から九州までをミサイル要塞化して、中国海軍を封じ込めることだ。それは日本を守るためではない。アメリカ本土を守るためであり、アメリカの太平洋支配を守るためだ。
 アメリカは、アメリカ・ファーストで、安全保障を考えている。同盟国の日本を犠牲にしても、アメリカは自国の利益や安全を追求する。日本や日本国民を守るために、アメリカは若者の血を流して戦うことは極力避けたいと思っている。
 台湾にしても、アメリカは海洋進出を図る中国を第一列島線内に封じ込める上で、極めて重要な要石と考えているから、その防衛に力を入れているのだ。
 米軍は、台湾有事をきっかけにして中国との戦争になった場合、沖縄の米軍基地を拠点にして最大限に利用する。普天間基地を辺野古に移転させ、使い勝手がいい新しい基地を造ろうというのも、いわばEABOの一環だ。
 米中戦争になれば、沖縄の米軍基地には、中国軍のミサイルが雨霰と降り注ぐだろう。そのため、米軍は沖縄からいったん、司令部機能をグアムやハワイにまで後退させることも想定している。
 第一列島線の島嶼に配備されたMLRや自衛隊は、どうなるのか?
 アメリカ政府の考えでは、MLRは自衛隊とともに島嶼に立て篭もり、中国軍のミサイル攻撃にじっと耐えながら、徹底抗戦を続け、味方が駆け付けるのを待つ。
 自衛隊やMLRが奮戦している間に、いったん後方に退いた米軍は態勢を立て直し、大軍をもって、沖縄奪還のための総攻撃をかける、というわけである。
 しかし、その間、島民はどうなるのかということについては、日米政府とも言及がない。戦争が始まる前なら、島民はフェリーや輸送船等で島外に避難できようが、戦争が始まってしまったら、最早逃げようがない。間違いなく、七十八年前の沖縄戦の再現になる。
 これはただの絵空事の話ではない。
 アメリカの戦略国際問題研究所CSISが、二○二三年一月に公表した中国による台湾侵攻のシミュレーションによれば、アメリカが単独で中国と戦った場合は、いずれの場合もアメリカ軍は敗北するという結果だったという。台湾はアメリカ本土からあまりにも遠く離れており、前線への兵站線が延びきっており、補給や支援が出来ないためだ。
 しかし、日本自衛隊が米軍と共同して、沖縄諸島や台湾で戦った場合に、かろうじて日米側が勝利するという結果になったという。だが、仮に勝利した場合でも、日米両国とも甚大な損害を被り、軍民ともにかなりの犠牲者が出るという結果になったという。
 沖縄南西諸島が「ウォーゾーン(戦争地域)」になるとは、そういうことなのだ。
 アメリカ政府も日本政府も、台湾有事にあたり、中国は核を使うことはない、と考えている。核を使えば、アメリカは核で応酬することになる。中国の習近平主席は、米中全面戦争は望んでいないだろう、と。台湾有事は、ウクライナ戦争同様、核なしの従来型の戦争になる、とアメリカは見ている。
 しかし、想定外のことが起こるのが戦争である。いったん戦争が始まったら、何が起こるか、誰にも分からない。核は使われないということは、誰も保障できない。
 なにはともあれ、台湾有事を起こさせないことが肝心である。
 日本は防衛力を増強することよりも、まずは台湾有事が起こらないよう、外交、政治、経済、情報など、あらゆる分野の手段や方法を使って、中国と台湾、アメリカの間を取り持ち、互いに武力行使をしないように宥める必要がある。そのためには、日本は、国連やグローバル・サウス、EU諸国、ASEAN諸国に呼び掛け、中国、台湾、アメリカなど関係国に自制を促し、対話するよう全力を挙げて仲介すべきだろう。それが引いては、日本の安全や東アジアの平和につながるはずなのだ。

 沖縄を離れる日は雨だった。私は連れ合いや娘と一緒に、摩文仁の丘を訪れた。摩文仁の丘には、七十八年前の沖縄戦の犠牲者二十万人の名前が刻まれた「平和の礎」が並んでいる。
 雨に濡れた石碑には、「命どぅ宝」と銘されていた。「命どぅ宝」とは「命はなによりも大切な宝物」という意味だ。
 摩文仁の丘から見える沖縄の海は、昔と変わらず静かに岸辺に打ち寄せていた。
 命どぅ宝! 生きていてこそ華なのだ。
 私は灰色に曇る海原を眺めながら、二度と再び沖縄を戦火に巻き込んではならない、という思いを新たにした。

(2023・2・28記)

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