連載 原発の蔭と影 第1回 「まえがき」に代えて 天瀬 裕康

 一般的にいうと、何かについての裏表を書く場合は、「……の光と影」という表現がよく使われます。たとえば「クルマ社会の光と影」といった調子です。昭和時代には「原発の光の部分」が大いに宣伝され、反対運動がなかったわけではないものの、日本中に数的・量的に過度の原発が乱立してしまいました。
 そうした昭和35~6(1960~61)年、大学院時代の私は短期間ながらアルバイトで二度、開設間もない原子燃料公社人形峠事業所(岡山県北部)に付属診療所を開院するために行きました。飲み水の確保が最初の難題でした。病原微生物の検査は私が行い、水質の分析は会社の技師に頼みました。こうしている間に若い原子力技師たちの、資源小国・日本の将来におけるエネルギー不足を憂うる至情には心を動かされたものです。
 その後、広島での第3号被爆者である私は、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)の運動に加わります。当時の日本では「IPPNWの連中はアカだ」との見方も多く、日本支部長だった広島県医師会長は辛い想いをされましたが、1985(昭和60)年にノーベル平和賞を受賞してからは、いくらか風当たりが変わってきました。それと同時に、原発の問題がIPPNWでも取り上げられることが多くなりました。1986年4月のチェルノブイリ(現在はチェリノービリ)の原発事故が影響したことは確かでしょう。
 しかし私は、即断的に<原発=原爆>として論旨を進めることには疑問を感じていました。が、福島の大事故後は反原発執筆活動の必要性を強く感じ、<原発≠原爆>ではないが<原発≑原爆>として書きたいと思うようになります。そして「脱原発社会をめざす文学者の会」の会報には、次の拙文を掲載して頂きました。
 第13号「反核の医師たちと原爆小説」(2018年7月)、第17号「広島の「アスチカ」――追悼会変更の周辺」(2020年5月)、第18号「原発被曝と被爆地――もみの木保育園の事例」(2020年8月)、第19号「避難者とプルトニウム」(2020年10月)、第21号「避難者で受け入れ者――子ども未来・愛ネットワーク」(2021年2月)、第24号「反核の想いはつよく――山口県避難移住者の会」(2021年9月)、第26号「自著を語る 混成詩『麗しの福島よ――俳句・短歌・漢詩・自由詩で3・11から10年を詠む』」(2022年5月)の7篇です。
 また、ホームページの「会員の原稿」欄の最初の寄稿は「文学大賞受賞作品読後感」正続2回(2021年5月、7月)で、引き続き以下の駄文を載せて頂きました。
 「五輪・国策・避難者」(2021.07.10)、「反核の児童文学作家・那須正幹氏への悼辞」(2021.09.10)、「首相の核観とブレを嘆く」(2021.10.14)、「瀬戸内海を死の海にするな! 伊方原発の場合」(2021.11.10)、「日本原子力発電(原電)の欺瞞癖」(2021年12月16日)、「関電の黒いもろもろ①美浜原発」(2022.01.26)、「原発「グリーン認定」の波紋と今後」(2022.02.24)、「関電の黒いもろもろ②大飯原発」(2022.03.23)、「関電の黒いもろもろ③高浜原発」(2022.04.28)、「詩 プーチン殿とご一統へ」(2022.07.01)、「北陸地方の電力事情」(2022.08.11)などです。
 この間、反原発の世論は増強し続けましたが、最近、望ましくない傾向が現れました。ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴う物価上昇・エネルギー事情悪化です。このため脱原発社会の出現を祈っている人たちにとって逆風ともいえるような状況が起こりました。政府の原発に対するスタンスが、突然、変わったのです。ご存知のように8月24日、政府は原発推進に方針を切り替え、電力会社はこれを追い風と受け止め、再稼動・新≑設に強気の姿勢を見せ始めました。もともと核兵器禁止条約という日本が率先して参加すべき会議に、不参加を続けた「唯一の被爆国」ですから、政府・与党の本音が出たという見方もあるでしょう。
 他方ではロシアのウクライナ侵攻は長期化し、原発攻撃の危険性も増大しつつあります。第三次世界大戦の悪夢さえ脳裡をよぎるのです。通常兵器で原発を爆破しても、原爆投下と同じような惨状が起こるに違いありません。
 これは緊急事態です。事ここに至っては、<原発=原爆>と考えねばならないようです。<原発≑原爆>論も含め、これまで書いたものの延長上に、新たな気持ちで連載を始めさせて頂きたいと思います。
 よろしくお願い申し上げます。
  ウクライナ避難者フクシマ雉よ鳴け 
  蝙蝠や核を支持へとブレし朱夏
  ゲンパツを狙い撃つ露軍ヒガンバナ                                 
                                 (2022.11.8)

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