第7回 何ごとも持続可能は〝三方よし〟の精神で

 このところは国連が掲げる持続可能な17の開発目標、SDGs(エス・ディー・ジーズ)運動の喚起啓蒙が社会現象になってきたような気がします。そのSDGs実現のためには何よりも先に「みんなが持続可能な生き方をし、誰ひとり取り残されない」ことの大切さも強調されています。最近では、これらと連動するように「より良い世界をもたらすためにも私たちの社会と経済のあらゆる側面を見直し刷新していこう」というグレート・リセット運動の大切さも強調されています。このグレート・リセットへの取り組みは、世界情勢の改善に取り組む国際機関といってもいい世界経済フォーラムが、ことし5月に開いたダボス会議のテーマをグレート・リセットにしたことでも知られます。ウィズコロナの時代だからこそ、アフターコロナを迎える変化を積極的に学んでいこう、というわけです。
 ならば、そうした社会にするためには、どうしたら良いのか。そこで、最近目立ってきているのは「目標達成のために、数字が独り歩きしてしまうのではいけない」という慎重論です。事実、先の衆議院選で三重県知事から国会議員に転身した鈴木英敬さんは、あるラジオの討論番組で気候変動への取り組みについて問われ「石炭削減にせよ何にしろ、無理はいけない。何事も出来ることから。それであってこそ、持続可能である。短兵急はだめで急いてはことを仕損じる」と言い切っています。

 持続可能。この4文字を思う時、突拍子ではありますが、私は少し考えてみてほしい人物がいます。それは、将棋の藤井聡太さん(19)、そして米大リーグの大谷翔平さん(27)大相撲の横綱照ノ富士(29)の三人です。藤井さんは先月13日に山口県宇部市での第三十四期竜王戦七番勝負第四局で豊島将之竜王(31)を破り全勝で竜王を奪取。史上初の十代での四冠を達成しました。米大リーグで今季「9勝、46本塁打」をマークし投打の二刀流が圧倒的な評価を受けたエンゼルスの大谷さんも今季のア・リーグ最優秀選手(MVP)に選ばれ、日本人選手としてはマリナーズのイチローいらい二十年ぶりの栄誉に輝きました。照ノ富士も大相撲九州場所で全勝優勝し、2場所連続6度目の優勝に輝きました。大関を務めた後故障で序二段まで陥落し、這い上がってきました。
 ここで私が強調したいのは、三人に共通する姿勢です。想像を絶する前代未聞の栄誉は、ひとつの目標に向かい、どこまでも夢を追いかけ練習を積み重ねてきた努力があればこそ、です。人には見えないところで自らを鍛え続けた表れが、ああした形になって大きく花開いたと思うのです。中でも大谷さんの場合、政府から国民栄誉賞を打診されましたが「まだ早いので辞退させていただきたい」と回答。その言やよし、で自分の力は持続可能だ、と思っているからにほかありません。

 気候変動に戻りますが私はかつて新聞社の大津支局長在任時に地球温暖化防止京都会議(1997年)で連日、デスクとして京都を訪れた日々を忘れません。24年後。世界の世論がここまで高まるとは、正直思ってはいませんでした。これも持続という人間の叡智のひとつの成果ではないでしょうか。
 SDGsで求められるのは、まさに全ての世界に共通する持続する目標ではないでしょうか。ここで私はあえて次のことばを挙げたく思うのです。大津にいたころ、近江商人さながらに天秤棒をペンに変え記者生活をしていたころに学んだことばです。「他国へ行商するもの総て我事のみと思はず基の国一切の人を大切にして私利を貪ること勿れ」「売手によし買手によしは常識ですが、これに世間よしを加えて【三方よし】で」。気候変動にせよ何にせよ、現場を訪ね一つひとつ地道な検証を重ねていくことも大切なのです。(2021/12/01)

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