隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第1回 西尾漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:以前にも時々原発の悪行について教えてもらったけど(『会報』17、18、20、21、23~25号)、これからは定期的に話を聞かせてもらえたらうれしいな。岸田首相がGX実行会議で原発の新増設に踏み込んだとか。ますます目が離せない。
 ところでGXって何なんだろう。近ごろはよくわからない英語の略語が多すぎるよね。
β:グリーントランスフォーメーションの略だそうだ。英語では「trans-」をXと略すらしい。「温室効果ガスを発生させないグリーンエネルギーに転換することで、産業構造や社会経済を変革し、成長につなげること」と説明されている。
γ:でも、国際的に使われている言葉じゃなさそうだね。検索すると、日本での使用例しか出てこない。
β:ともかく第2回のGX実行会議(8月24日)でGX実行推進担当大臣である西村康稔経済産業大臣が(実際には経済官僚がだけど)「再稼働への関係者の総力の結集、安全第一での運転期間延長、次世代革新炉の開発・建設の検討、再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化」を提案し、首相が「検討を加速」するよう指示したところから、なにやら原子力政策の大転換のような騒ぎになった。
α:実際はそうでもないってこと?
β:現実性はどうだろうかね。8月25日、26日付の電気新聞は、こう見ていた。来夏・来冬以降の再稼働を見込んだ7基のうち「供給力として織り込めそうなのは、特定重大事故等対処施設完成待ちの高浜1、2号機のみ。女川2号機の発電再開時期は2024年2月の予定で、それ以外は再稼働までになお障壁が残る」。運転期間延長は、原子力推進と規制を分離した経緯から「経産相が炉規法改正を提起すること自体難しい」し、「規制委が法改正を検討するという筋書きはハードルが高い」。
α:次世代革新炉はSMR(小型モジュール炉)がブームのようにマスメディアを賑わせているけど。
β:モジュール炉というのは、主要機器を工場で生産し、建設地に運んで組み立てるというものだ。とはいえSMRの定義は国や機関により様々で、炉の設計も数多く多様だ。というか、ほとんど机上の炉だからね。電気新聞では「主体、資金いかに」の大見出しだ。「有識者は『電力会社から具体的な話が聞こえてこない』と指摘」と書いている。
γ:25日付エネルギーフォーラムオンラインコンテンツ「目安箱」では、こうだ。「どのような型の原子炉を、どの企業が、どこに、どのような資金調達計画で、いつまでに作る――。これを決めるだけでも大変だ。どの電力会社も原子炉再稼働の遅れや電力自由化への対応で経営不振に直面しており、あらたに巨額の費用のかかる原子力発電所を作る余力はない」。
α:ふつうに考えても小型炉なんて経済性は悪いでしょう。
β:小規模から始めて資金を回収しながら順次建設していくことで初期投資、建設中の利子負担が小さくて済むそうだよ。都合よく順次注文が入って、メーカー当たり100基、200基になるなら、コスト削減の可能性があると言えなくもない。
α:やはり非現実的ですね。安全性は?
β:経済協力開発機構の原子力機関が2021年に出した『小型モジュール原子炉―課題と可能性』には「SMRは一連の未試験の技術革新を導入しており、それがさらなる技術リスクにつながる可能性もある」とあった。
γ:日本エネルギー経済研究所の村上朋子原子力グループ研究主幹が『週刊エコノミスト』2022年8月23日号でこう言っていた。「最初の1基が完成しないことには量産もできない以上、今は初号機の実現に注力するしかない。安全対策をどのように求めるかといった規制も手探りの中で踏み出すのだから、初号機は工程遅延やコスト・オーバーランも頻発する可能性が高い。そこで開発に嫌気がさして、それ以降の計画が中止されるようであれば、信念を持って実用化したいと考えていた顧客はいなかったことが証明されるであろう」。皮肉がキツイよね。
β:可能性があるとしたら小型炉じゃなくて大型の革新的軽水炉だね。これなら既存の炉と大して変わらないから建設できなくもない。
α:大して変わらないのに「革新型」なの?
γ:8月24日の原子力規制委員会記者会見で当時の更田豊志委員長のいわく「政府方針として示されるものは必ずしも原子力に携わっている人間の常識的な言葉遣いに沿っているかは分かりません」。その革新型軽水炉だって、よほどの資金救済策がないかぎり電力会社が手を出すとは思えないな。
α:運転期間の延長は進みそうな報道を見ました。
β:ネックと思われていた原子力規制委員会が、あっさり助け舟を出しちゃったからね。原則40年、最長60年という決まりをなくすことを前提に規制のあり方を考えるという。経済産業省は来年にも法改正を狙っている。
γ:10月15日付エネルギーフォーラムオンラインコンテンツ「記者通信」によれば「経済産業省主導に落とし穴も」ありそうだけどね。
α:再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化が無理なことは僕にだってわかる。政治の力で加速化など、できようはずもない。無理な原発回帰でなく、脱原発の道筋をつけることこそが現実的な政策なんですね。

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