隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第4回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:ドイツの脱原発がついに実を結んだんだね。
β:4月15日。日本時間では16日の明け方かな。最後に残っていた3基の原子炉が運転を終了した。
γ:もちろんそれで万々歳じゃない。後始末の問題は山積している。
β:『世界』の6月号でベルリン在住のジャーナリスト梶村太一郎が具体的に記述しているよ。
α:西村経済産業大臣が19日のツイッターで「ドイツは原子力を停止しましたが、欧州は送配電網が繋がっているため、曇天が続き太陽光発電が稼働しなくとも原子力稼働するフランスから供給を受けられます。フランスは原子力が7割です。しかもドイツの家庭電気料金は日本の約2倍です。日本は原子力を活用します」とつぶやいていた。
β:元経産官僚の古賀茂明が25日に反論している。「西村経産相の発言は非常に不正確。22年末~23年の冬フランスは、本来原発で電力を賄うはずなのに、実際には老朽化による事故や故障などで半数の原発が動かなくなり、停電の計画まで作った。ドイツはフランスに大量に電力を供給してフランスを助け、暖冬のおかげもあり何とかフランスは危機を乗り切った」。
γ:自然エネルギー財団のホームページで25日、大林ミカ事業局長と一柳絵美研究員の連名で「ドイツと欧州各国の電力輸出入の状況」を解説している。4日にはロマン・ジスラー 上級研究員が「日本政府が伝えない、欧州の原子力発電の現実」を載せていて、西村発言の不正確さがよくわかるよ。
α:それにしても日本政府の原発回帰政策は無責任だ。事故の反省を忘れさせようと「福島復興」ばかり強調している。
β:原子力基本法の改悪では、前回にも言ったように、福島事故を防げなかった反省をいまさらのように付け加えているけどね。それを言いわけのようにして、新たに「原子力利用に関する基本的施策」を書き込んでいる。人材の育成確保、産業基盤の維持強化、関係者相互の連携、国際的な連携強化、研究開発の推進と円滑な実用化、電気事業改革状況における事業環境整備、再処理、使用済燃料貯蔵能力増加、廃止措置の円滑かつ着実な実施、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する主体的な働き掛け……。
 産業基盤の維持強化というのが怪しいでしょ。4月19日付電気新聞の匿名コラムには「相当な規模での官民共同の新たな資金支援の仕組みが不可欠である」とあった。
γ:昨22年12月14日付電気新聞の同じコラムでは、別の筆者が「制度が整備されれば事業が円滑に進む、といううまい話ではない」とも書いていたけど。
 それはともかく、その資金支援がいかにも頓珍漢なんだな。高速炉と高温ガス炉の実証炉(実用炉の手前段階の炉)に、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)に定めるGX投資で、「今後10年間で約1兆円の投資」が見込まれているんだ。すでに今年度予算で高速炉に76億円、高温ガス炉に48億円の新規予算がついていた。翌年度以降の予算化を保証する国庫債務負担行為により25年度まで3年間の総額は、それぞれ460億円、431億円だとか。
α:高速炉開発ってうまくいっていないんでしょ。
γ:高温ガス炉もね。当初の計画からは大きく後退している。
 2月10日に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」の参考資料では、高温ガス炉は原型炉(実証炉のさらに手前段階の炉)を飛ばして試験研究炉からいきなり2030年代に実証炉の運転開始、高速炉は原型炉「もんじゅ」が運転実績がほぼないまま廃炉となったのに目をつぶって40年代に実証炉の運転開始とされていた。でも、概念設計の事業者を公募しているのを見れば、まだどんな設計にするかさえ決まっていないことがわかる。産業化にはほど遠いというか、まあ無理だろう。
β:高温ガス炉については昨22年9月21日の最後の委員長会見で、原子力規制委員会の更田豊志委員長は「まだ調査というかウォッチしている段階」と言い、こうも述べていた。「高温ガス炉の使用済燃料は、再処理するというのは現実的ではありませんので、全量再処理という政策をとっている日本では、今の時点ではその政策同士のバッティングで、導入が、視野に入るものでは決してない」。
γ:高速炉では、ちょっと古い話だけど、松浦祥次郎前原子力安全委員長が09年12月15日付電気新聞で言こう言っている。「現時点で、予断を持たず冷徹に観れば、FBRの将来展望は未だかなり不確定である。楽観的に観ても、安全性、信頼性、経済性、資源安定性、技術成熟度、核拡散防止、核テロ防止、高レベル放射性廃棄物処分負担軽減、社会的受容性等の視点でFBRが現行軽水炉や改良軽水炉に競争可能なレベルに至るには相当の期間が必要であると考えざるを得ない」。
α:本来無理ってことだよね。
γ:初代外務省原子力課長の外交評論家、金子熊夫エネルギー戦略研究会会長は『日本原子力学会誌』2016年2月号で「旧共産主義圏国家か、トータリテアリアン(全体主義的)な国家でないと、高速炉は開発しにくいのかもしれません」と言う。当たっていなくもないかな。
α:そんなものに税金をつぎ込むのが産業基盤の維持強化だなんて、許しがたいな。

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