第16回 みんな幸せで、みんな楽しく。世界は運命共同体だからこそ

 先日、ある新聞に作家の池澤夏樹さんが「戦争と平和」を論点に【文学の向き合い方】について寄稿、作者次第で広がる可能性につき彼なりの見解を示され、興味深く読みました。その中で、池澤さんは「戦争は非日常のドラマの場であり、文学のよき題材となる」と書かれていましたが、私はこの文面にある<戦争>を<コロナ禍>に置き換え、考えてもみました。一向に治まらない新型コロナウイルスによる社会の変調と不安。この先どうしてよいものか。私たちの誰もがこのところはコロナ禍の第七波の感染者数に一喜一憂し右往左往しているのが実感です。では、どうすれば、この苦境から脱出できるのか。この思いは全ての人に共通します。

 社会の変調といえば、コロナ禍をきっかけに生まれたマスク着用、テレワーク、オンライン授業などに代表される非日常社会の常態化はじめ、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に伴っての今や十分にありうる核戦争の危険性、その他燃料費高騰と世界的な食糧不足。日本の場合、これに安倍晋三元首相の銃撃死をきっかけに問題化した旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と政治家との気になる関係の急浮上と国葬の是非などがあげられます。何もかもが大変な時代です。では、どうしたら良いのでしょう。
 このうちコロナ禍の方は感染者拡大そのものが増減するなか、医療の逼迫に在宅患者の増加、救急出動のたらい回し、増える死者…と収束のめどは立っていません。これまで行われてきた感染者の全数把握の簡略化など医療機関や自治体の負担軽減のためにも見直しが声高に指摘されています。一方でこうしたなか、政府は次世代型原発の開発と建設を検討する方針を打ち出し、ロシアのウクライナへの軍事侵攻も24日で半年が経過。欧州最大のザボロジエ原発への砲撃が相次ぐなど、お先真っ暗の状態が続いています。
 そして折も折、米ニューヨークの国連本部で開かれていた核拡散防止条約(NPT)再検討会議ではロシアの反対で8月26日夜(日本時間27日朝)、最終文書を採択できずに決裂、閉幕してしまい、被爆地のヒロシマとナガサキの人々をがっかりさせました。日本ではほかに「法的根拠もないのに。なぜ」といった安倍晋三首相の銃撃死に伴う国葬反対への声も高まっています。世界はおろか日本もどこへ行ってしまうのか。見通しのたたない世の中を私たちは生きている。そんな気がするのです。

 こんななか、福島第一原発事故で全町避難が続いていた福島県双葉町では特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示が8月30日午前零時に解除され、11年5か月ぶりに町内への居住が可能に。これで住民が一人も暮らしていない自治体は解消。一方でプロ野球・ヤクルトの村上宗隆内野手(22)が8月26日のDeNA戦で46号3ランを放ち、史上最年少22歳6か月での通算150号本塁打を達成。米大リーグでは8月10日にベーブルースいらい104年ぶりとなる二桁勝利、二桁本塁打という偉業を達成したエンゼルスの大谷翔平選手(28)も頑張っており、こちらも拍手喝采です。
 そして。私は、といえば。亡き妻の初盆を終え、一回忌に併せての遺稿集出版を前に「幸せとは。ふつうの世の中が持続してくれたら、それで良いのだ」と。そればかりが頭の中を渦巻いています。みんな幸せで、みんな楽しく。世界は皆、運命共同体なのですから。(2022/9/1)

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