α:原発の寿命を延ばす法案が2月最後の日に国会に出されてしまった。残念ながら与党多数で成立はしてしまうんだろうけれど、しっかり議論してほしいね。
β:「GX脱炭素電源法案」というのが通称で、電気事業法、原子力基本法、原子炉等規制法、再処理法、再エネ特措法という5つの法律の改正(改悪)を一つにした「束ね法案」だ。そうすることで議論をしにくくし、早く可決に持ち込もうとする、まさに悪行だね。
原発の寿命規制を原子炉等規制法から電気事業法に移す。その際に、審査基準の変更などに対応するため停止した期間や行政指導に従って停止した期間、仮処分命令によって命令取り消しまで停止した期間などは運転期間から外すことで事実上60年をも超える運転を認める。原子力基本法には原子力利用の価値として電力の安定供給や脱炭素に貢献することを書き込み、推進を「国の責務」とする。再処理法では、廃炉の費用を電力会社に拠出させ、使用済燃料再処理機構に管理させることとする。
それだけだと露骨な原発推進法案なので、再エネ特措法改正で導入拡大を謳うことで脱炭素社会実現に向けた法案だと世論にアピールするわけだ。
γ:60年をも超える運転を認めるといっても、世界中見渡しても60年運転できた原発はないんだけどね。55年動かした原発もない。それはともかく寿命規制を原子炉等規制法から電気事業法に移すことで、今後は経済産業省が自由に「改正」できることになる。あっさり明け渡した原子力規制委員会の罪は重いよ。
α:反対した委員もいるみたいだけど。
β:2月8日の会合で石渡明委員が反対を表明した。その日は結論を出さずに13日の臨時会合で4対1の多数決となったんだ。石渡委員は「私は、やはり科学的・技術的な知見に基づいて人と環境を守るということが原子力規制委員会の使命だと思っております。今回の改変というのは、これは科学的・技術的な何らかの新知見があって、それに基づいて改変をするという、法律を変えるということではないと理解しています。運転期間というものを法律から落とすということでありますので、これは安全側への改変とは言えないと私は考えます」と明快に反対を表明した。
α:わかりやすいし、至極まっとうな意見だね。それが通らないのがおかしい。
β:法改正に賛成した委員からも、「我々がこれを決めるに当たって、外から定められた締切りを守らなければいけないという、そういう感じでせかされて議論をしてきました」と杉山智之委員から、伴信彦委員からは「やはり外枠といいますか、制度論ばかりが先行してしまって」と規制委の独立性への危惧が表明されている。
γ:そこが最大の問題だね。前回、原子力規制庁と資源エネルギー庁とで早くから法改正の具体的な検討を原子力規制委員会に諮らず始めていた話をしたけど、規制委の山中伸介委員長は、そのことの意味をわかってもいなかった。
さらに今度は、首相が原子力規制委員会に指示をするという、とんでもないことが起きている。岸田文雄政権はGX基本方針を2月10日に閣議決定したんだけど、「GX脱炭素電源法案」については、規制委での石渡委員の反対を聞いて世論を気にした首相が17日、新規制の具体化や丁寧な説明などを指示したんだ。
α:「原発の首相指示巡り迷走」って、朝日新聞の記事があった。「指示に『安全規制の具体化』が含まれていたと国会で批判が出ると、指示を規制委側に伝えた西村明宏環境相は3日、『体制整備をしっかりと進めてほしいという考えを伝えた』などと釈明。ただ、首相指示も規制委側への伝達も非公開で行われており、正確なやりとりが検証できない状態だ」って。
β:閣議後の環境相会見では、指示は「新たな規制制度についての丁寧な説明と、新たな安全規制の具体化、的確な安全審査に向けた体制整備が必要」だった。指示を受けて「GX脱炭素電源法案」は、規制委の「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」初会合を待っての閣議決定・国会提出になった。
γ:その検討チームだけど、24日付の電気新聞が「国会審議へ『説明』準備」と見出しを付けたように、首相が求めた「丁寧な説明」を、技術的検討事項に先行して議題とした。第2回会合でも、どう説明するかの議論をしている。
山中委員長はここでも、首相の考えと規制委の考えが「そんなに食い違いはない」から問題ないとしているんだ。独立性を守るという誇りは、そもそも山中委員長にはないらしい。
α:原子力規制委員会の存在意義が問われるよね。
「GX脱炭素電源法案」では「原子力の憲法」だという原子力基本法すら変えようとしているとか。
β:原子力利用の目的に「地球温暖化の防止」を加える一方、福島事故を防げなかった反省をいまさらのように書いている。
α:岸田首相って強引なくせに、やたら世論を気にするんだね。
β:その上で原子力利用のために必要な措置を講ずるのが「国の責務」だとしている。その必要な措置まで列挙している。「原子力事業者の責務」もある。
γ:原子力基本法じゃなくて原子力推進法だ。基本法が最初に制定されたときは短くてすっきりした法律だったのに、めちゃくちゃな厚化粧をしてしまった。
α:そんな法案が成立してしまうなんて考えたくないよ。
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