連載文士刮目 第38回 【難破する世界のなかで 永遠回帰の幸せとは】 伊神 権太(写真 「藤井八冠陥落」と「都知事選56人届け出」を報じた新聞)

 自民党が提出した改正政治資金規正法の6月19日の可決、成立=国会議員に収支報告書の「確認書」交付を義務付け、政治資金パーティー券購入者の公開基準額を現行の「20万円超」から「5万円超」に引き下げるが、企業・団体献金の禁止は盛り込まれない=に続き、小池百合子東京都知事(71)の任期満了に伴う同20日の都知事選告示では56人もが大量立候補を届け出。この世の中、何かが痛んでいるように感じられて仕方ない。そればかりか、目を海外に転じれば、です。ロシアのプーチン大統領の北朝鮮の首都・平壌での金正恩朝鮮労働党総書記との会談の一方で、一向に和平への道筋が見えないロシア・ウクライナ戦争、さらにはイスラエルのガザ・ヒズボラ、ハマスへの限りなき砲撃と、日本も世界も何もかもが混沌とした濁流のなかにいる、というのが、このところの世界に対する私の正直な実感です。
 そして。20日には、甲府市で指された将棋の第9期叡王戦5番勝負の第5局で藤井聡太八冠(21)が挑戦者の伊藤巧七段(21)に敗れ、昨年10月の王座戦から続いていた八大タイトル独占が崩れ「七冠」となりました。こうした世の中のアレヤコレヤを見るにつけ、私は人間って。何者なのだろう、と思わざるをえません。中でも世界各地で繰り返される戦争の愚かさには、互いに手と手を取り合って生きてゆけばよいものを、とあらためてそんな思いにかられるきょうこのごろです。仲良く生きていけばよいものを、と思うのです。それにしても。この地球に生きるニンゲンたちは互いの立場を思って生きていくことが出来ないのでしょうか。これは、もはや狂人世界以外の何物でもない、と。そう思わざるをえません。なぜ、同じ人間同士が協調し生きていくことが出来ないのか。何よりも、日々繰り返されている戦争という名の不幸続き。それがわからないのです。

 ところで前述したように東京都知事選への大量、史上最多56人もの届け出も去るものの、6月の大事件といえば、です。やはり、あの将棋の藤井聡太叡王(21)が竜王、王将、棋王、名人に続く叡王防衛戦で2勝3敗で敗北して失冠。とうとう八冠が途絶えたことではないでしょうか。全タイトル制覇期間が、羽生善治九段(53歳)の5か月を越える8カ月で途切れたのです。藤井の敗戦に伴い、気になる言葉といえば、です。マスコミ各紙の見出しに躍る「陥落」「苦境」といった言葉です。そこで思うのですが。「陥落」「苦境」は、どの人とて長い人生で1度や2度は味わい、次への反発力、ステップになっていることも確かです。
 そこで。敗北した藤井聡太さんの言葉といえば。「(失冠は)時間の問題だと思っていたので、あまり気にせずこれからも頑張りたい」でした。なんと、さわやかかつ潔い言葉なのでしょう。

 そういえば、私は先日、名古屋市内で開かれた中部ペンクラブの第39回総会の席であった詩人北川透さん(88)の公開文学講演会『夢から想像力へ-難破する世界と共に<空は死児らの亡霊にみち>(中原中也「含羞」)』を聴講する機会に恵まれました。講演に耳を傾けながら、最近の世の中を思えば思うほどに、北川さんの話に胸を突かれたのです。彼は、こう話しました。
「夢は夜見る時に見る夢ではなく、常識はずれのことも夢。それで失敗続きのこともある。夢はどこへ行くのか」と。そして「ニーチェは言いました。『百年待つ。愛情というものは、そういうものだ』と。でも、百年も待つ。永遠じゃないけれど。それが【永遠】というものだろう。ボクもまもなく終わりますが。永遠回帰に辿り着きたい」と。

「ボクもまもなく終わりますが。永遠回帰に辿り着きたい」と話す北川さん。

 私は北川さんのこの話しを耳に、私たちはみんな夢のなかにいるのだろうか、と。そんな考えにとらわれもしたのです。私たちは誰もが毎日、見果てぬ夢をみて暮らしているのだろうか、と。だったら、夢は幸せな夢の方が好いに決まっている。さてさて藤井聡太さんの八冠奪還はこの先どうなるのか。新しい東京都知事にはだれが選ばれるのか。みんな夢の中とは違う現実の話なのです。(2023/7/5)

北川さんの講演に聴き入る中部ペンクラブ会員たち。

 そういえば、あの詩人の白石かずこさんが亡くなりました。

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