連載 原発の蔭と影 第6回 茨城も危険、ご注意を 天瀬 裕康

 日本赤十字国際人道研究センターが発行している『人道研究ジャーナル』の第12巻(2023年2月)に、大阪学院大学の真山全教授による「露ウクライナ戦争における原子力発電所攻撃の国際人道法上の評価」という論考が載っています。
 要旨を述べると、稼働中の大出力原発に対する攻撃はザポリージャ発電所に対するものが最初で、3月2日に国際原子力機関(IAEA)事務局長は、「平和目的に使用される核施設に対するいかなる攻撃及び威嚇も国連憲章、国際法及び国際原子力機関憲章の違反を構成する」との2009年の決定に触れながら、核の安全を害する行為を慎むよう要請しました。
 平和的な目的の原発は保護されるべきものの、軍事的目標があれば攻撃の対象たりうるということです。原発からでるプルトニウムから原爆を作る意図があれば攻撃は正当となり、原発の周囲を軍隊が取り巻いていたり、迎撃ロケットを装備した原発の場合も攻撃されます。
 原発が無人地帯にあり、住民に重大な損失が生じ得なければ攻撃は許容されるかもしれませんが、日本の場合は狭い国土に原発が林立しています。現在、原発など原子力施設のある道県は北海道、青森県、宮城県、福島県、茨城県、新潟県、石川県、福井県、静岡県、島根県、愛媛県、佐賀県、鹿児島県の13道県ですが、無人地帯に立地している所はありません。
 だからといっても、保護されるべき場所こそ攻撃したい場所かもしれないのです。東北地方の話が続きましたので、関東では核関連施設の多い茨城県に舞台を移してみましょう。

 茨城県の北は福島県,西北は栃木県で西南は埼玉県、南は千葉県に接し東は太平洋です。県庁所在地の水戸市は旧・水戸藩の藩庁のあった場所。南北でいえば県のほぼ中央ですが東西では太平洋側寄りで、日本では二番目に大きい湖・霞ヶ浦(戦争中は霞ヶ浦海軍航空隊や予科練のあった処)の北方にあります。西南には学園都市のつくば市があり、太平洋側には東海村、大洗町、那珂市などに、16ほどの核関連施設が見られます。
 日本で一番早い原発は日本原電の東海発電所で、昭和41年に運転を開始しましたが、平成10(1998)年に停止し、現在あるのは昭和53年に開始した東海村の東海第二発電所です。国立研究開発法人の日本原子力研究開発機構・原子力科学研究所には、7基の研究用原子炉がありました。同法人・同機構の核燃料サイクル工学研究所は高速実験炉を使った研究をしています。同法人・同機構の大洗研究開発センターは、原子力水素(エネルギー用の水素を原子力から製造する)技術や、高速炉の開発などを行なっており、大洗町に立地されました。以上の4つが主なもので、大洗研究開発センター以外は東海村にあります。
 東海村にはその他にも多くの施設があり、1979年に住友金属鉱山が全額出資して作った㈱ジェー・シー・オー(JCO)は、核燃料製造の中間工程を請け負っておりましたが、1999年に臨海事故を起こしました。ウラン燃料の改良を試みているニュークリア・デベロップメント㈱や原子燃料の加工製造をしている原子燃料工業㈱、放射線による滅菌・照射改質を行なう日本照射サービス㈱、医療関係の積水メディカル㈱や、公益財団法人核物質管理センターもここにあります。大学関係では東京大学大学院工学系研究科原子力専攻が、高速中性子源炉(高速中性子による核分裂連鎖反応がエネルギーの発生源になっている)「弥生」などを使って原子力工学の総合的研究を行っているのも東海村です。
 大学関係でも、東北大学の金属材料研究所附属量子エネルギー材料科学国際研究センターは大洗町です。ここには先述の原子力研究開発機構の大洗研究開発センターの他、日本核燃料開発㈱も大洗町にあります。
 国立研究開発法人の量子科学技術研究開発機構・那珂核融合研究所は那珂市で、三菱マテリアル㈱や三菱原子燃料㈱も那珂市です。無味乾燥な話がつづきましたが、これら原発や核関連施設が攻撃された場合の被害を考えてみましょう。東京からはあまり遠くないので、茨城県で核事故があれば東京にも影響が及びますし、東京が核攻撃を受ければ茨城県の原発や核関連施設も大きな被害を生じ、それがまた核災害を起こすのではないでしょうか。

 ところで国際刑事裁判所(ICC)は、2023年3月17日、ロシアが侵攻したウクライナからの子供の連れ去りに関し戦争犯罪の容疑で、プーチン大統領に逮捕状を出しました。これに対しロシアは身柄引き渡しを拒否し、本人が出廷し公判を開くのは困難でしょう。
 これだけでなくプーチン氏たちには、現在の国際的ルールや法秩序を壊そうとする意図さへ感じられるのです。だとすれば、原発等への危険な攻撃とその後の核汚染を防ぐ唯一有効な手段は、原発を無くしてしまうことかもしれません。
 少なくとも2次的な危険は減少させられると考えられるのです。(4月26~30日に、ケニアのモンバサで核戦争防止国際医師会議(IPPNW)世界大会が開かれ、私はWeb参加の予定)

茨城につどう多くの核機関みやこもひなも汚染おこらむ      
独裁者 逮捕状出ても知らぬ顔 法秩序すべて否定するらし 
核施設おそえば原爆と化す見込み対策は核の無きに如かずや 

(2023年4月11日)

関連記事

最近の記事new

  1. 報告 たどり着いた街で~東日本大震災追悼式 野武 由佳璃

  2. 連載 原発の蔭と影第18回 中国電力出発 天瀬 裕康

  3. 反原発詩抄 その4 (読人不知)

TOP