去る5月の19日(金)から21日(日)まで、異様とも思える厳重な警戒のもと広島で開かれた先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)は、大きな事故・事件の起きることなく終了し、政府与党は大成功と褒めちぎり、岸田首相の支持率は上昇しましたが、これは、とんでもないことだったのです。
この会議が広島で開催と決まった時、反原爆の市民や有識者たちは、今度こそ首相も核兵器禁止を前面に出してくれるだろうと、推測し期待しました。でなければ、彼の選挙地盤の沈下も起こりかねないからです。しかしこの願いはウクライナ大統領ゼレンスキー氏の登場により巧妙に、完全に裏切られました。はじめはZoom参加の予定だったのが、突然リアルの来日・来広となったのは、じつは初めからシナリオの大半は書かれており、岸田首相の電撃的なウクライナ訪問のさい、ほぼ全容が固まったのでしょう。
これは両者にとって、非常に都合の良いことでした。ゼレンスキー氏の側からすれば、直接G7に集まった各国首脳に強力な支援を訴えることができる、というメリットがあります。岸田首相のほうはもっと複雑ですが、アメリカの世論を思うと原爆の問題にはあまり触れたくなかったのです。
広島県被団協は6月5日に総会を開き、G7サミットに対する意見として、各国の首脳が被爆の実態に触れた点は評価しましたが、被爆者たちが期待した核兵器廃絶という大きな目標に対する前進はなかった、と総括しております。このあたりが一般的な評価でしょうが、原爆・原発といった核問題に関して考えると、私はもっと辛い点数をつけたいのです。原発に関し、特に運転期間「60年超え」容認のあたりを眺めてみましょう。
運転期間の制限は、東電の福島第一原発事故翌年の2012年に導入され、安倍内閣は14年にエネルギー基本計画を改定し、原発は重要なベースロード電源ではあるが、可能な限り依存度を低減するとし、菅内閣は21年4月、福島第一原発処理水の海洋放出を正式に決定し、原発保護の姿勢をみせました。
岸田文雄首相は22年2月、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー逼迫に対応するため、原発活用の検討を考え、8月には原発推進の指示を出しました。この推進は経済産業省(以下、経産省と略)を中心に進められ原子力規制委員会の事務局である原子力規制庁は、水面下で経産省と歩調を合わせていたと言われています。規制と推進は逆の立場で議論すべきものですが、内閣による原発政策の大転換が多方面に影響し始めたのでしょう。原発推進派の圧力が徐々に増してきたとはいえ、まことに遺憾な出来事です。5人の規制委員のうち一人が運転延長に反対したにも拘らず、論議を尽くすことなく多数決で承認したのは、その表れといえましょう。
東電福島第一原発事故以来、原子炉等規制法の改正で導入された原発の運転は、「原則40年、最長60年」というものでしたが、この規定が揺れだしたのです。経産省は9月22日、原子力政策を議論する専門家の会合で、運転期間の延長を検討する方針を示し、原子力規制委員会にも、安全面や制度面での議論を呼び掛けました。電力業界は、適切に設備点検や交換をすれば、さらに長期間の運転が可能としています。しかし原子炉の圧力容器のように、交換できない設備もありますから、この言葉を安易に信じることはできません。
これまで経産省は、原発の建て替えは「想定していない」と説明してきましたが、今回はこれを認め、「原則40年、最長60年」としている運転期間の延長も盛り込み、翌週の政府「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で最終決定しようとしたのでした。既存原発の運転期間は、再稼動のための審査の対応で停止した期間を計算から除外し、60年を超える運転を可能にしようというわけです。
このため政府は今年(2023年)2月28日に、これを可能にする電気事業法改正案を含めたエネルギー関連の5つの法案、たとえば再生可能エネルギーの導入促進を盛り込んだ法案などと一括した「束ね法案」とし、纏めて閣議決定し国会に提出しました。
さてG7広島サミットが開催されたのは、このあとです。その評価は初めの部分で触れたように、会議は成功と感じた国民が多かったようです。岸田首相たちは、大成功とほくそ笑んだことでしょう。原発運転期間の実質延長法案が、参院本会議で可決・成立したのは今年、2023年の5月31日でした。
電気事業法や原子炉等規制法などの一部を改正する法案、GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法は、脱炭素社会の実現という大義名分の立つ論調にも助けられたのでしょう。自民・公明の両党だけでなく、日本維新の会や国民民主党も賛成して成立したのです。こうしてみますとサミットは、原発問題にも悪い影響を残した、といえそうです。
新聞が報じる処によりますと、ウクライナ市民の中には「生き残るために、再び核兵器を持たねばならない」との意見が出始めたそうです。これなどは最も好ましくない傾向で、ヒロシマの願ってきたもの、「脱原発社会をめざす文学者の会」が目指しているものとは真反対の流れが起きかけているのです。
これは自民党右派・保守派の願っているところで、岸田首相の就任以来の原発に対する態度を眺めると、彼の中にも核容認の考えが蠢いていたのかもしれません。
Gセブン広島サミット花菖蒲
紫陽花の色変わりいくG7
核害を勿忘草や首脳たち
(2023.6.10)