隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第5回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:福島事故の汚染水を、政府はあくまでも海洋放出の構えなんだね。
β:「汚染水」じゃなく「ALPS[多核種除去設備]処理水」だと政府や東京電力は言い張っている。マスメディアでは2021年4月の政府による放出方針決定以来、「汚染水」という言葉が使えなくなった。おかしな話だよ。
α:「ALPS処理した汚染水」と言うのもだめなのかな。
β:さあ、どうだろう。マスメディアも、始めのうちは「原発事故処理水」とかと工夫を見せていたんだけど。
γ:先日の「汚染水を海に流すな!6・20福島行動」で、「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんが「トリチウムは世界中で海に流されていると言うけれど、原発事故が起きた福島から流されるものは違うんじゃないの?」と疑問を投げかけていた。
α:ほんとだよね。その肝心なところを、マスメディアはきちんと報じていない。
β:それはともかく7月4日にIAEA(国際原子力機関)が国際的な安全基準に合致しているとする報告書を岸田首相に提出、7日には原子力規制委員会が放出設備の安全性を評価する使用前検査の終了証を東電に交付した。どちらもただそれだけのことだけど、政府は、あたかもお墨付きを得たかのように夏に放出開始と言明している。
α:「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という漁業者との約束があるんじゃないの。
γ:2015年に建屋近くの地下水を汲み上げている「サブドレン」の放出を福島県漁連に認めさせた際、東京電力は「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします」と約束していた。
β:原発に流れ込む前に地下水を汲み上げて海に放出する「地下水バイパス」を県漁連が「苦渋の決断、渋々の承認」で容認すると、1年後には「サブドレン」の放出容認を迫り、さらなる「苦渋の決断、渋々の承認」でそれも認めればけっきょく建屋内の水もって、やり方が汚なすぎる。それでいて未だに「約束は順守する」って、どの口が言うのか。
α:IAEAの報告書で国際的なお墨付きを得たんじゃないんだね。
β:そもそもお墨付きととらえるのが間違いだよ。IAEAの報告書は、汚染水の海洋放出を正当化するものではなく、放出設備の性能やタンク内処理水中の放射性物質の環境影響などを評価したに過ぎない。原子力規制委員会も放出設備をチェックしただけだ。
γ:正当化ということでは、IAEAは初めから逃げている。「日本政府からIAEAに対し、ALPS処理水の海洋放出に関連する国際安全基準の適用を審査するよう要請があったのは、日本政府の決定後であった。したがって、今回のIAEAの安全審査の範囲には、日本政府がたどった正当化プロセスの詳細に関する評価は含まれていない」ってね。
「正当化に関する決定は、利益と不利益に関連しうるすべての考慮事項が考慮されうるよう、十分に高い政府レベルで行われるべきである」というのは、それが行われていないと暗に指摘しているのかも。
β:原子力資料情報室の声明は、「被ばく評価では、預託実効線量への寄与が最も大きなものは水産物の摂取であり、『摂取による線量に最も寄与している放射性核種は、ヨウ素129、炭素14、鉄55、セレン79であり、その寄与率は 90%を超えている』とされている。ALPSで取り切れなかったトリチウム以外の核種が与える影響が大きな割合を占めることが明確に示された」と指摘している。
α:ともかく漁業者も誰もかも理解なんてしていない。その声をさらに大きくしていくことで放出を食い止めよう。
話はがらっと変わるけど、高浜原発の使用済MOX[プルトニウム・ウラン混合酸化物]燃料をフランスで再処理しようというのも、とんでもない話だ。
β:6月12日に電気事業連合会と使用済燃料再処理機構が発表している。「実証研究」と称する使用済MOX燃料再処理技術の知見獲得を電力会社が日本原燃と日本原子力研究開発機構に委託、さらに両者がフランスのオラノ社に再委託する。実際の再処理等は再処理機構がオラノ社に委託するというややこしい仕組み。使用済燃料の輸送、再処理、回収プルトニウムのMOX燃料加工と日本への輸送、回収ウランや放射性廃棄物の保管と日本への輸送と、危険の国際的ばらまきだ。
γ:その「実証計画」のためとして、高浜原発からは約200トンの使用済燃料(うち使用済MOX燃料は約10トン)をフランスに送る。それを「福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と同等の意義がある」と強弁している。6年前に福井県に約束しながらずるずると引き延ばしてきた中間貯蔵計画地点の期限が今年末と後がなくなっていたんだ。
β:福井新聞は「苦肉の策」、毎日放送は「ウルトラC」、毎日新聞と産経新聞は仲良く「奇策」と見出しを付けた。エネルギーフォーラムまでが「裏技」と呼ぶ。『選択』7月号では「詐術」だ。それにしても、2000トン規模の中間貯蔵と1ケタ小さい200トンで後の計画なしの海外搬出が「同等」とは、詭弁としても成立しない。
γ:経済産業省は、使用済MOX燃料も再処理できると宣伝したいようだ。とはいえオラノにも商業規模の実績はない。高レベル廃液のガラス固化やMOX燃料製造は実績ゼロ。できるふりを続ける一時しのぎは、約束を守ったふりが見透かされている後を追うしかない。
α:まさにインチキのオンパレードか。

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