書評 黒田杏子さんの一周忌に想う~『黒田杏子の世界』刊行委員会編『花巡る 黒田杏子の世界』 野武 由佳璃

『花巡る 黒田杏子の世界』
『黒田杏子の世界』刊行委員会編
2024年3月13日発行
藤原書店
3,300円+税

夏蜂の般若波羅蜜多花かかう     由佳璃
鮎焼きて俳句塩振るや、かな、けり

 2022年3月13日飯田蛇笏,龍太の講演を終えた後、黒田杏子さんが脳内出血による意識不明ののち甲府市民病院にて84年の生涯を閉じられた。
 1938年東京本郷生まれ。山口青邨に師事する。日経俳壇選者、伊藤園おーいお茶新俳句選者であり、『存在者金子兜太』『語る兜太』『証言証言昭和の俳句』などのプロデュースをこなし聞き手でもある。
 黒田さんはよく各地を吟行し、つねづね季語の大切さや俳人として社会詠が大事と教えていただいた。精力的な活躍も偲ばれる。
 冒頭には写真家のご主人黒田勝雄さん撮影の元気な姿がある。
 美しい桜の扉を開くともう何もかもが俳句という名の宇宙となる。思いやりあふれる眼差しのみずみずしい言葉がみちあふれている。句集は『木の椅子』『一木一草』『日光月光』など数多くの受賞作品を残す。世界で一番短い詩、五七五で綴られる俳句は不思議なことにパラシュートを開いて揺れながら地球に帰還する宇宙船に似ている気がする。
 傷ついてたくさんの炎に焼かれカザフスタンの草原に身を横たえる俳句の着地。
 本書は藤原書店より一周忌に交友があった方々、編集者、「藍生あおい」の同人の追悼文をまとめたものだ。
 ここに黒田杏子さんの言葉を記す。
“きわやかに四季のめぐりうつる国、この俳句列島日本。ここに生れ生活する私たちの俳句は季語という宝石のように磨きぬかれた日本語を核として自然,人,もの,風土,歴史,味覚など、森羅万象宇宙のあらゆるものとの出会いの瞬間を一行十七音字に書きのこすものであります。”
 この文章を書いている時、スマートフォンを触ったらしく詩人であり作家であるイタリア人のマルティーナ ディエゴさんから折り返し連絡がきた。ベルを鳴らしてしまったようだ。覚えはない。どうやら黒田さんは電話魔だったという。
 彼の追悼文のタイトルが偶然にも”また掛けます”
 話したくてたまらない先生の様子が目に浮かぶ。
「俳句は短い詩だから、詩人は伸びるから是非おやりなさい」 
 詩人の森川雅美さんへの言葉も心に響く。忘れえぬ人、黒田杏子さん。 
 戦争も核もいらぬ。 
 佳句あればこその未来を思う。
 合掌します。
 
花巡る一生ひとよのわれをなつかしみ  杏子
涅槃図をあふるる月のひかりかな



※野武由佳璃(堀田季何主宰楽園同人)

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