首相の核観とブレを嘆く

 2021(令和3)年10月14日、もう秋の真ん中なのに厳しすぎる残暑の続く午後、衆議院は本会議で解散され、その後の臨時閣議で衆院選の日程が、19日公示・31日投開票と決まりました。
 私は選挙運動をするつもりはありません。久しぶりに総理大臣が出たということで、広島の街はなにかとお祝いムードですが、原爆被爆・核禁止の問題がこれで進展するかどうかが気がかりなのです。
 首相就任から10日後の衆院解散も、解散から17日後の投開票も戦後最短ということで、翌15日の新聞はどれもこれも第一面に大きく書き連ねています。でも、コロナ禍やそれの伴う経済失調で日本中が苦しんでいるというのに、一体なぜそんなに急がねばならないのか、という疑問も起こってきました。
「人気がある間に」という考えもありますが、岸田文雄首相の就任早々の人気は意外と低く、全国的にみると最低だった麻生太郎に続く下から二番目で、随分と不人気だった菅義偉前首相にも及びません。
 それなら「難点の見えないうちに」というのは如何でしょうか? なるほど、これは当っているようですが、襤褸はもう出始めています。まず想い浮かぶのは汚れたカネの問題です。19年の参院戦で安倍前々回首相や菅前首相が応援した河井案里候補に1億5千万円というベラボーな選挙運動資金を出した事件は、河井案理は失職したものの、安倍・菅への司直の手はストップしたままなのです。しかもこの時、岸田文雄は岸田派の総力を挙げて対立候補を応援していたのですから、煮え湯を飲まされたわけです。また森友問題では自殺者まで出ているのに、汚職で濃い灰色の甘利明を幹事長に据えるなんて、一体、どういう神経なのでしょうか。
 岸田首相の誇る「聞くのが特技」というのは、多くの人の話を聞いている間に対策を考える、「ウソの始まり」なのかもしれません。なにしろ安部晋三は怖いですからね。伊藤博文・山県有朋らに始まる長州閥がどんな政治をしてきたかを調べ直すと慄然とします。麻生も怖いから麻生派の大臣をたくさん作りました。それに論功行賞で重要なポジションを与えたい甘利を幹事長に据えれば、1億5千万円問題にも蓋をしてくれるに違いない、という思惑もあったはずです。しかし、これが命取りにならないという保証はありません。 
 岸田首相は、コロナ禍による経済問題に対しては「新資本主義」なるものを出しておられますが、これも言葉の綾で、じっさいの内容はイマイチですが、広島地方の識者を怒らせたのは原爆の問題でした。
 首相就任前の岸田は、「核廃絶の問題は日本の首相がやらなくて誰がやる(すなわち、私がやる)」と歯切れのよい啖呵を切っていましたが、岸田内閣がスタートするや、すぐさまトーンダウンしてしまいました。日本が国連総会に提出する決議案には、1月に発効した核兵器禁止条約に直接触れていないことが13日に分かったのです。核兵器保有国が賛成していないから、というのがその理由ですが、アメリカに気兼ねしているからでしょう。
 またエネルギー問題に関して経産相は、原発の再稼動に意欲を燃やしているようです。以前の岸田文雄は、再生可能エネルギーへの変換に熱心そうな言辞を洩らしていましたが、原発推進派に押し切られそうです。少なくとも「脱原発社会をめざす文学者の会」とは違う方向に進みそうです。脱原発にしたくても出来ない環境なのかもしれませんが、どれが本音かバレないようにするのも政治家の生きる道かもしれません。
 ちなみに、15日の『中国新聞』は、「広島文学資料保全の会」の代表が前日の14日に広島市役所で記者会見し、峠三吉・原民喜・栗原貞子たち被爆した三作家の日記や手帳など5点をユネスコの「世界の記憶」(旧・世界記憶遺産)の登録に向け、市と共同申請することを報じました。岸田首相が後押ししてくれるか否かも問題点です。
 16日は少し涼しくなりました。選挙の宣伝カーが走り回る下旬には、本格的秋風が吹いていることでしょう。

 核兵器禁止条約を批准せず逃げ廻りおるアメリカ属州
 原発はプルトニウムを得る手段 原爆くらい何時でも作る!
 原子力ロケットエンジン搭載しバンアレン帯*に消えゆく悪夢
                     *地球をドーナツ状に取り巻く放射線帯

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