「脱原発社会をめざす文学者の会」文学大賞決定

 東日本大震災から十年。日本の蒙った三度目の原子力災からも十年。この間、果敢に、言葉を信じ、文学の力で、この災厄と向き合った表現者たちがいた。私たちは、その試みを顕彰したいと思い、ささやかながら文学賞を創設した。『脱原発社会をめざす文学者の会』文学大賞である。もとより、原子力災と取り組んだすべての作品を読むことは、私たちの能力を超えている。私たちは自らが手にした作品の範囲で評価するしかなかった。しかし、選出された作品が、すぐれていることは間違いがない。

事務局長・村上政彦

フィクション部門

『献灯使』 多和田葉子 講談社 2014年
『あるいは修羅の十億年』 古川日出男 集英社 2016年
『戯曲 福島三部作』 谷賢一 而立書房 2019年

 膨大で圧倒的な被害と悲劇を目の当たりにして、沈黙を強いられた表現者も少なくなかった。しかし、少数の表現者たちは、〝原発〟のある世界の過去・現在・未来を言葉によって紡ぎ出した。多和田葉子『献灯使』、古川日出男『あるいは修羅の十億年』、谷賢一『戯曲 福島三部作』は、ここ十年間に書かれたフィクションの大きな成果である。

川村 湊

ノンフィクション部門

『孤塁 双葉郡消防士の3・11』 吉田千亜 岩波書店 2020年
『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実 9年間の記録』片山夏子 朝日新聞出版 2020年
『福島モノローグ』 いとうせいこう 河出書房新社 2021年

 フクシマ3・11原発災の悲劇は、まだ続いている。あの日、現地では何が起こり 何があったのか? 福島の人々は何を思い、何を語るのか? 記録者たちが己れの目や耳を通し、肌で感じたすべてを言葉で語ろうとする営為に感動した。この十年間で、私たちは、これら秀逸なノンフィクションの収穫を得たことを感謝し、フクシマ原発災を決して忘れないということをあらためて認識する

森 詠

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