「人の奥行きの深さ描けた」
第一回配本「錨のない船」
日本を代表する長編作家加賀乙彦さん(九二)の長編小説全集(全十一作品十八巻、作品社)の刊行が始まった。収録作は「永遠の都」「雲の都」「宣告」「湿原」などの長編小説と、加賀文学の重要な一角を占める「高山右近」などキリスト教関連の小説。加賀さんは「長編には長編の力がある。長編だからこそ、人間の奥行きの深さを描けた」と話す。 加賀さんは、精神科医としてフランスに留学した時代の経験をモチーフにしたデビュー作『フランドルの冬』(一九六七年)以来、日本の作家では珍しく長編を創作の中心に据えてきた。主な長編作品はロシア語や中国・フランス・英語など各国語に翻訳され、世界中で読まれてきた。
一方で、作品は文庫でも絶版になったものが多く、紙の本として後世に残したいという加賀さんの思いが、今回の刊行につながった。
(加古陽治・記)ー東京新聞夕刊2021年6月14日の記事から(抜粋)