α:イランが核兵器を持つのを阻止するといって、イスラエルやアメリカがイランの施設を攻撃した。この攻撃って、国際法上違法なものなんでしょう。そもそも、きわめて危険な行為だよね。
β:攻撃は6月13日、イスラエルによって開始された。攻撃対象にはナタンズ、フォルドゥのウラン濃縮施設、イスファハンのウラン転換施設、アラク重水炉(未稼働)などがあった。イランも報復攻撃をし、両国で報復攻撃の応酬となる。22日にはアメリカもイランの核施設空爆に加わった。とはいえ損傷の実情は不明だ。また、イランは事前に濃縮ウランを別の場所に移していたとの説もある。ともあれ大規模な放射能・化学物質による被害は報告されていないことは確かだ。トランプ米大統領の強引な提案により24日には停戦となったけど、その先は見通せない。
γ:核拡散防止条約(NPT)は原子力平和利用の権利を各締約国に認めていて、ウラン濃縮もその範囲に入る。イランは自国の活動を平和目的であると主張しているんだ。ただし、近年イランは高濃縮ウラン(核分裂しやすいウランの割合を20%以上に高めたもの)の保有量を急拡大させていて、60%に濃縮したものも400kg余り保有している。一般には90%以上に濃縮されたものが兵器用とされるけど、60%の高濃縮ウランを90%以上に再濃縮することは簡単にできる。400㎏の高濃縮ウランは核爆弾9発分に当たるそうだ。
α:そうはいうけどIAEAも、イランが核兵器開発をしているという証拠はないと報告しているよね。疑惑があるという理由で武力行使を正当化するには無理があるよ。明らかに国連憲章などの国際規約違反でしょ。
β:核施設への攻撃は、大規模な放射能災害をもたらしうる、稼働中のブシェール原発攻撃はさすがに避けられた。でも、ウラン濃縮施設や転換施設だって機器や貯蔵容器の損壊によっては、フッ化ウランが放出され、空気中の湿分と反応して猛毒のフッ化水素を発生させることがありえた。ウランは放射能毒性と重金属毒性を併せ持っているから、吸入により重篤な障害を起こすこともありえたよ。
γ:多くの識者が、原子力施設への攻撃がむしろイランの核開発の決意を促す、他の国でも、核保有を望む動きが出てきかねない、NPT(核拡散防止条約)体制の危機を招くと指摘している。さらに問われているのが「法の支配」であり、日本政府の責任だ。
6月25日付朝日新聞の社説は言う。「『法の支配』に基づく国際秩序の維持は、日本外交の基本方針ではなかったのか。トランプ米政権との関係を保つことを優先するあまり、その原則をゆるがせにすれば、二重基準だとのそしりは免れず、東アジアの安全保障にも悪影響を及ぼしかねない」と。
α:石破首相は13日夜、首相官邸で記者団に「平和的解決に向けた外交努力が継続している中、軍事的手段が用いられたことは到底許容できない」と指摘。「極めて遺憾で強く非難する」と強く述べたそうだけど。
β:岩屋外務大臣も同じく13日の談話で「軍事的手段が用いられたことは到底許容できず、極めて遺憾であり、今回の行動を強く非難します」とイスラエルを非難した。報復の応酬を懸念し、「我が国は、全ての関係者に対して、最大限の自制を求めるとともに、事態の沈静化を強く求めます」と。
γ:ところが石破首相は16日、「我々は、イスラエルは自国を守る権利を有することを確認する。我々は、イスラエルの安全に対する我々の支持を改めて強調する」というG7首脳宣言に加わり、おまけに「大きな成果だ」と強調しているんだ。19日、共産党の田村智子委員長との党首会談で「ダブルスタンダードをとっていることになるのではないか」と問われると、「外相が発したものが日本政府の立場だ。G7はG7だ」と答えたという。
α:お粗末に過ぎるよ。原子力、核施設への攻撃が二度と起こらないよう、日本こそが国際世論に強く働きかける必要があるというのに。
β:繰り返しの内容になるけど、核兵器をなくす日本キャンペーンが6月24日、内閣総理大臣と外務大臣に宛てて発した「日本政府は、米国の違法なイラン攻撃を批判し、核問題の平和的解決を主導してください」という緊急要請から主な記述を紹介しておこう。以下、引用。
「6月21日、米国はイランにおける3つの核施設を攻撃しました。これは明らかな国際法違反であり、私たちは強く抗議します。戦争によって傷つき犠牲になるのは市民です。戦禍を止めるためには、全世界の市民がそれぞれの役割を果たし、力を合わせなければならないと考えます。そこで私たちは、日本の市民として、日本政府に米国のイラン攻撃を国際法違反として批判し、イラン核問題の対話による解決を主導するよう求めます。
日本政府は、これまで多国間主義や法の支配の重要性を繰り返し訴えてきました。しかし、いまや同盟国である米国がそれらを破壊しているのです。日本政府は、NPTの重要性を何度も語ってきました。しかし、そのNPTがまさに目の前で壊されようとしているのです。それらについて政府は、毅然と声を上げなくてよいのでしょうか。国際秩序が崩壊し、核戦争という破滅に向かわないために、日本こそが、力による現状変更に断固反対し、核軍縮・不拡散の先頭に立つべきです」。
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