連載自由詩 げんしのし32 森川 雅美

げんしのし32

森川 雅美

静かになっていく体の内側からの囁きを小さく転がす、

生命の傷から溢れる深い流れの遥か彼方にまで広がる、

意識を深部から揺さぶるまだ知らぬ脈動の細部に運ぶ、

生命の傷から溢れる深い流れの傷んだ骨髄に滲みこむ、

鈍い痛みに罅割れる横広がりの断層の暗い奥底に動く、

生命の傷から溢れる深い流れの光に跳ねる粒粒を注ぐ、

静かになっていく体の内側からの囁きを小さく転がす、

生命の傷から溢れる深い流れの消えていく細胞に集う、

起伏を細かく砕く方角へ傾く土地の古い記憶の潰える、

生命の傷から溢れる深い流れの分岐する細い血に満つ、

緩やかな光の粒の眩しく少しだけ残る堆積物の刺さる、

生命の傷から溢れる深い流れの先端のより先に語らぬ、

静かになっていく体の内側からの囁きを小さく転がす、

生命の傷から溢れる深い流れの失われた地面に滲みる、

ささやかなお喋りの積み上げられる陥没した音に並ぶ、

生命の傷から溢れる深い流れの渦巻く消化器官を刻む、

河川敷に届く足先の回復する微かな産毛の窪みへ撒く、

生命の傷から溢れる深い流れの晒されるより先に継ぐ、

静かになっていく体の内側からの囁きを小さく転がす、

生命の傷から溢れる深い流れの表面にうすく火の伝う、

歪んだ関節の走る尽きない丘陵の繫がる神経を数える、

生命の傷から溢れる深い流れの穏やかな背骨まで放つ、

少しだけ光る階に近づきながらも汚れる内側へと戻る、

生命の傷から溢れる深い流れのはるか先にまで終らぬ、

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