隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第12回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:敦賀原発2号機が、とうとう新規制基準に不適合として再稼働できなくなった。
β:8月2日の原子力規制委員会が、7月26日の審査会合で不適合の結論となった報告を受け、審査書案の作成を原子力規制庁に指示。8月28日に審査書案を了承した。30日間の意見募集の後、10月にも原子炉設置変更申請を初の不許可とする方針だという。
γ:ただし、再度申請することはできる。原子炉設置変更は不許可でも、もとの設置許可は生きているからね。同原発を所有する日本原子力発電は、再申請をすると表明した。
α:どうして不許可になったの?
β:2号機から約300メートル離れたK断層が、新規制基準で活断層と定める約12万~13万年前以降に活動した可能性や、2号機の原子炉直下の小規模断層へ連続している可能性を、いずれも否定できないとしたんだ。原子炉から250メートルしか離れていない位置を浦底断層という、大地震を引き起こす活断層が走っている。その浦底断層からK断層のところで枝分かれして原子炉直下まで伸びている。浦底断層が動いたときに枝分かれ断層もずれ動き、その上にある建物や構造物、すなわち原子炉建屋や原子炉が破壊されてしまう恐れがあるんだ。
γ:問題の本質は浦底断層にある、と東洋大学の渡辺満久教授など多くの研究者が言っている。近くに大断層があるところに原発を建ててしまったから直下の地盤の安定性が問題になるんだと。さっき生きていると言った原子炉設置許可は1982年のことだけど、その時は浦底断層は、はるか昔の死んだ断層で活断層ではないとされていた。1980年に刊行された『日本の活断層』(東京大学出版会)では、活断層の可能性があるという記述だったんだ。
 それが1991年の『新編 日本の活断層』で活断層であることは確実として、浦底断層と名付けられる。2004年には政府の地震調査研究推進本部が、主要活断層帯の一つと認めた。だけど日本原子力発電は、約2ヵ月後に敦賀原発3、4号機増設の原子炉設置許可申請をした際も活断層ではないと主張している。
 その申請に当って実施したボーリング調査で、日本原子力発電は都合のいいデータのみをつまみ食いして証拠立てた。中田高広島大学名誉教授は旧原子力安全委員会傘下の会合で「地質学の基本をねじ曲げたボーリング結果の解釈」だと指摘、産業技術総合研究所の杉山雄一活断層研究センター長は、「専門家がやったとすれば犯罪に当たる」と憤慨していた。
β:日本原子力発電の体質かね。原子力規制委員会ができてからの新規制基準適合性審査でも、2013年には有識者会合が今回の審査書案と同様の報告書をまとめていたのを日本原子力発電は受け入れずに抵抗。なんとかしてひっくり返そうと、審査資料中の活断層近傍のボーリング調査の柱状図を改竄してしまう。このことが原子力規制委員会によって見つかったため、2021年8月に審査が一時中断された。22年12月から審査が再開されたんだけど、その後も破砕帯の解釈を修正したりさまざまな「誤り」が相変わらずで、けっきょく今回の不合格に至るわけだ。
γ:2008年には日本原子力発電も浦底断層を活断層と認めざるをえなくなった。そして今回の新基準不合格だ。基準に適合していると認めるときでなければ原子炉設置許可をしてはならないと定めながら、適合していないことが許可後に判明しても許可が取り消されることはないという原子炉等規制法がおかしいんだよ。許可取り消しができるよう法改正が必要だと思うな。
α:そうだよね。それって決して極論じゃないよね。
β:極論は、原子力ムラの専売かな。よほどショックだったようで、末期の悲鳴の如き暴論が飛び出した。産経新聞では、7月27日と8月7日の「主張」(社説)で原子力規制委員会は「悪魔の証明」を要求していると繰り返し非難、7日には「規制委に根を張る独善性の弊を除くのは岸田文雄政権の役割だ。自民党には『原子力規制に関する特別委員会』があるではないか。2号機不合格の決定が下されたのは国会閉会中だった。岸田首相にはこの安全審査の妥当性検証に着手してもらいたい。傍観すれば日本はエネルギー欠乏症に陥る」と主張した。同紙8月5日の櫻井よしこの連載「美しき勁き国へ」のタイトルは「悪魔の如き規制委の視線」。
γ:『エネルギーフォーラム』も負けちゃいない。Webオリジナルは7月28日、31日と2回も記事を載せている。28日は「素粒子」なる匿名で、こう訴える。「日本原電は、政府を訴えること、そして政治判断を求めることをしてほしい」、「このおかしな判定で、政治の救済を日本原電は行うべきだし、政治もそれに応じるべきだ。岸田文雄首相が『首相案件』として介入しても良いほど、重要な問題だ」。すごいでしょ。31日の金沢祐奈記者も追随する。「原発再稼働・新増設が国策である以上、新規制基準の在り方、審査の進め方、委員長を含めた委員人事、経済産業相への稼働命令権限の付与など、政治力を駆使した改革が求められている」。
『エネルギーフォーラム』本誌8月号の奈良林直東京工業大学特任教授、石川和男社会保障経済研究所代表、石井孝明ウェブサイト「with ENERGY」運営者による「徹底討論」に至っては、まさに開いた口が塞がらない。奈良林教授が何の根拠もなしに「私はK断層を表層のみの浅い副断層だと考えています」と専門外の曲論を主張するのはご愛敬としても、「規制委が『安全性だけを判断する』のなら、経産相に運転許可証(ライセンス)を持たせるべきではないですか」は、いただけないよ。石川代表も「電気事業法を改正し、稼働命令権限を持たせるべきでしょう」とエスカレート、「政府が今の規制委の在り方を良しとしない人を起用すれば、現状を打破できるかもしれません」だって。
α:それだけ原子力ムラはまともな思考ができなくなっている。末路が見えたね。

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