隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第9回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:東日本大震災、福島原発事故から13年になる。「2011年3月11日、マグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震によって東日本大震災が発生した。巨大地震と大津波に襲われた東京電力福島第一原発が過酷事故を起こして爆発。膨大な量の放射性物質が環境にばらまかれた」と、原子力資料情報室が声明を出した。
β:福島第一原発の1~3号機で炉心が溶け落ちてメルトダウン。1、3、4号機では水素爆発で建屋上部が吹き飛んだ。2号機で格納容器下部の圧力抑制プール付近での破損が起きるなどして、大量の放射性物質を環境中に放出した。
γ:事故から13年経っても事故がどう起こったか、本当のところはわからない。事故炉の放射能は高くて、起こってしまうと原因調査もままならないのが原発事故だ。中がどうなっているのかメルトダウンした燃料がどんな状況なのかも、ロボットをいろいろ使った調査がトラブル続出で、いまだに、ほとんどわからずにいる。
α:声明では「あれから、すでに、13年を数える。だが、事故はまだ終わっていない」と言っている。「とりわけ、事故を起こした原発の後始末が遅々として進まない。後始末と言いつつも、どのような状態にするのか、具体的な最終状態を決めることができないでいる。放射能という存在がそうさせているのだ。事故から30~40年で終息するだろうか。その見込みを立てることができない。百年作業になるのではないかとおそれる」。
β:福島民報と福島テレビが共同で実施した県民世論調査では、廃炉工程表に明記された2051年までの廃炉完了について78.3%が「達成できない」と答えていた。
γ:日本原子力学会の検討チームは100年以上~数百年とするシナリオを2020年7月に発表している。23年9月19日付の朝日新聞で廃炉検討委員長の宮野廣さんは、「処理水の放出によって、廃炉作業はどれほど進むのか」の問いに「ものすごく進むかというと、そうではない。計画通り放出すれば問題はないが、処理水のもとである汚染水が発生する状況をそのままにしていいのか。課題が放置されている」と答え、「福島第一原発は今も炉心に燃料デブリが残った状態だ。それで51年に完了というのは、あり得ない話だ」と言っていた。
α:それなのに岸田政権は原発回帰だ。「まるで、福島原発過酷事故を無視するかのように」って声明は言う。
β:1月1日にマグニチュード7.6の地震があり余震が続いている能登半島地震で、原発事故が起きたら避難ができないとも思い知らされたというのにね。
 原発事故収束のための人や機器等の現場到着も被曝対策も、道路・港湾・空港の損壊により妨げられる。放射性物質が放出された中では、避難はもとより被災地の救援・復旧もできない。石橋克彦神戸大学名誉教授が命名した「原発震災」の現実だ。
γ:もうひとつ無視されているのが、原発回帰の現実だよ。2024年度の原子力予算案を見ると、高速炉だの核融合だのの夢物語に多額の税金を注ぎ込もうとしている。できっこないのに。
α:声明も言っている。「核ごみの文献調査も、使用済み核燃料の後始末も、核燃料サイクルの根幹をなす六ヶ所再処理工場も、行き詰まって見通しが立たないでいる。それを、まるで知らぬかのように」って。
β:北海道の寿都町と神恵内村で核ごみの文献調査が終わったんだけど、ようやく報告書の案が公表されたところで次の概要調査に進めていいかを訊くのはまだ先になりそうだ。道知事は反対と言っているので、そこで止まってしまうのを避けるための時間稼ぎをしている。それまでに新たな文献調査地が決まることを期待してたんだけど、長崎県の対馬市で誘致の動きがあったのは議会が誘致請願を採択したのに市長の反対でつぶれた。
γ:仮に調査に入れたとしても長崎県知事は反対するから、けっきょくつぶれる。政策を見直さない限り核ごみの後始末はできないよ。
β:使用済み燃料の後始末では、関西電力と東北電力が原発敷地内に乾式貯蔵施設をつくることを地元に申し入れた。後始末というよりこれも後始末の先送りだ。六ヶ所再処理工場はまた27回目だかの竣工延期が確実で、もう、いい加減にしてほしい。
α:被災の現実も無視されている。
γ:さっき言った県民世論調査では、「教訓や記憶が風化している」が77.6%だった。
α:13年目というのでマスメディアも大きく取り上げるけど。
β:記事になるのも「復興」がキーワードだ。帰還困難区域が少しずつ解除されているものの、実際には帰還が進んでいるわけじゃない
γ:中間貯蔵されている除染廃棄物について2015年3月の搬入開始から30年以内に福島県外で最終処分すると法律に定められている。期限まで残り21年となるけど、最終処分地の姿は見えない。むしろ「再生利用」と称して地元にも全国にもばらまこうとしている。政府はそれを最終処分実現への「鍵」と位置付けてるんだ。それに反対するのは復興の妨げだという。
α:汚染水の海洋投棄も続いている。どれだけ被災者を痛めつけるんだか。
β:「汚染水」というのは風評加害なんだそうだ。
γ:原発事故が生んだ汚染水だよ。事故被害に汚染水投棄で二重被害に加えて言葉狩りまで。まさに三重加害だ。
α:何とかしたい、何とかしなくちゃね。

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