海の奥にまで広がる私たちの 悲しみであるなら囁かれる魂の痕跡の うすい先端を誰が掬うのかと跳ねる 方角に晒され散りいく水際まで 破片が散りばめられきらきら 洗われる取り出されないまま奇形に なる意識に呼ばれ続ける残骸の 不明になる切口にゆがみ稼働される いくつもの腫瘍に寄生し拡がる 分からずに歩いている同じ方向に 微細な粒子まで拡散し浸透する過剰に なる目の開く狭間から奥底の 立ち現れる首筋を伝う抑揚を糾いつつ とても大切だけど留まらず誰かの なお縊れる吃音がささやかに 越境し止めどなく脱臼しつづけ 脈動に呼ばれ錯綜する切実な穢れの ゆっくり草をはむ百年が形を 滴りを纏いながらもう会えなく なる長長とした暗路を辿り緩やか 海の奥に突き刺さる私たちの 絡まりであるなら会えない魂の欠片の あったこともなかったなんて 明滅する細胞のひとつひとつが 弱まる配線管を伝い散り散りになる もう帰れる場所はないのだと爛れる体 の隅隅まで覆う網膜の隆起の いまだ歪んだままに停滞し続ける ぼろぼろになる背骨の内側から 溢れる血液が広まり地面に沈みいき 固まる記憶の影に屹立す掠れる やがてきみが語られる小さな 声に瞬く唇がいくつも落ちる海原の かすむ彼方に解かれいく胎盤は 崩れたまま彷徨う端端の痛みを傾け 少しずつひとつになる音階に 繰り返す火に炙られながら溶解 する同胞たちのはらわたを綴る野の 反射する空へと切り刻まれる悲しみの 棚引く脳内に発光する足跡は ゆっくり草をはむ陽光が背中を温め 海の奥にまでぶら下がる私たち の過剰であるなら縮まる魂の欠片の まつろわず輻輳する親族たちが 降り注ぐ大動脈弓の奔流に揺すられ 路傍に浸み込む肉のない声たちや 過剰つづける頭数の地形に語られる人 の言葉に間引かれる小数点の 綻びていく地脈の深部まで拡散する ゆっくり壊れる静かに壊れつづけ 首筋のしこりは深海にまで這う 四方に放散し振り向いたまま 立ち止まる穢れを掠め忘却する悔悟の 誰かが伝えなければ忘れられ 幾度も失われ続ける記憶の細部 の滴りに削られていく耳骨の果てに 溶解する熱の行方に切られる 脂肪は重くなり足裏から溜まる腫瘍の ゆっくり草をはむ無常がそよ風に 果てなく繁茂しつづけ地殻に まで浸みいく波の拡がりいく連なりが
※この作品には、拙詩集『日録』に収録した詩のいくつかの行を、意識的に再度使用しました。