瀬戸内海を死の海にするな! 伊方原発の場合

 2021年11月4日、四国電力株式会社(以下、四電と略)の伊方(いかた)原発3号機の運転差し止めの仮処分申請が、広島地裁で却下され運転が認められました。仮処分とは、長い裁判手続きが終わるまでの仮の措置のことです。
 瀬戸内海に面した愛媛県西端のこの原発は、私が住んでいる広島県沿岸部西南端の大竹市から南方約90㎞にあり、大事故でもあれば被害が及ぶことは必定です。これまでの経過を眺めてみましょう。
 この3号機が営業運転を始めたのは1994年12月15日。2011年3月11日の東電福島第一原発(以下、イチエフと略)の大事故後、16年3月11日に広島県・長崎県の被爆者たちが運転差し止めを求めて広島地裁に提訴しましたが、8月12日には原子力規制委員会の審査に合格し再稼動しました。
 翌17年3月3日、山口県東部の住民三人が運転差し止めを求め、山口地裁岩国支部へ仮処分を申し立てますが、同月30日、広島地裁が運転を認める決定を下したので、住民側は広島高裁に即時抗告します。
 当時の運転許可は新規制基準に基づいており、かなり厳しくなっておりました。新規制基準というのは、イチエフ事故後に原子力規制委員会が従来の指針などを見直したもので、2013年7月に施行されました。メルトダウンや地震・津波対策を強化したもので、再稼動はこれに適合することが必要なのです。
 それで10月3日、3号機は定期検査のため運転をいったん停止しますが、その後、伊方3号機が世間の目を惹いたのは、2017(平成29)年12月13日の広島高裁の野々上友之裁判長の、運転差し止めの決定でした
 彼は岡山県の出身で、裁判官生活36年のうち16年は広島地裁・高裁の判事を務め、詳細は割愛しますが「3号被爆者」問題など数々の原爆訴訟で原告に対する被爆者認定をしており、今回は広島市と松山市の市民4人の申し立てに応じた脱原発的決定でした。これが歴史的な転換点と称せられ、全国各地の原発にも当てはまると評価されたのは、火山の影響(火砕流、火山灰)を重視したからでしょう。約9万年前に発生した阿蘇カルデラの噴火で、130㎞離れた原発敷地内に火砕流が到達した可能性が小さいとはいえない、というのが論拠なのです。
 そこで四電側は不満を表明、すぐさま上告します。しかしプルトニウム239の半減期は2万4千年、ウラン238は45億年です。核災害の問題を扱う場合には、こうした巨大な時間を相手にするのですから、9万年前と言っても荒唐無稽な話をしているのではありません。
 残念なことに野々上栽培長は同年12月下旬に定年退職されました。その後は彼のような巨視的視野で考える裁判官がいなくなったせいか、18年の9月25日には広島高裁の異議審で運転を認めると決定し、10月27日から再稼動します。また、別に愛媛県の住民が申し立てていた仮処分に関し、高松高裁は11月15日に運転を認めると決定し、四電は運転を継続することになったのです。

 こうして火山の問題は捨て去られましたが、広島―伊方あたりの海底には国内最大規模の活断層「中央構造線断層帯」が走っています。19年3月15日には、山口地裁岩国支部が運転を認める決定をし、住民側は広島高裁に即時抗告。20年1月17日には広島地裁が即時抗告審で運転差し止めを決定し、四電が異議を申し立て、3月11日には広島・愛媛両県の7人が、運転差し止めの仮処分を広島地裁に申し立てました。
 21年3月18日には、広島高裁が異議審で運転を認め、11月4日には冒頭で述べたように広島地裁が、運転差し止め申請を却下したのです。政府与党への忖度か、判決が電力会社に甘くなったような気がしないでもありません。
 私はSF同人誌『イマジニア』第12号(2020年4月)に載せた「時よ、荒れるな」の中で、一部に四電をモデルにした設定を使いましたが、ともかく問題の多い原発だといえましょう。

  九万年まえの阿蘇山噴火にて百三十キロに被害あるらし
  被爆地のヒロシマ原発を停めんとす阿蘇の噴火の火砕流想えと
  広島の高裁3号機に許可を出す住民たちは唖然呆然                                       (2021.11.12記)

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