原子力を利用するさいの安全を確保する原子力規制委員会は、去る8月18日の定例会合で、敦賀(つるが)2号機再稼動の前提となる、審査の中断を決めました。審査資料に不適切な書換えがあったからです。
福井県敦賀市にある2号機原子炉建屋直下の断層が、活断層か否かは大きな焦点でした。若狭湾・敦賀湾の浦底断層から柳ヶ瀬山断層へと続く断層帯が「将来の活動を否定できない」という2015年の有識者調査団の評価書を、原子力規制委員会は確認していました。新規制基準は、活断層の上に重要施設を建てることを禁じています。再稼動を目指す日本原子力発電(以下、原電と略す)は、審査を通じてその評価を覆そうとしたのかもしれません。
もともと原電は原子力発電のパイオニアよろしく、原発専門の電力会社として日本の9電力会社(北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州)と、日本生命をオーナーとする電源開発などが出資して、1957(昭和32)年11月1日に設立された特殊な会社でした。その東海発電所(茨城県東海村)は1966年7月に、敦賀原発1号機(福井県敦賀市)は1970年3月に営業運転を始めていますから、やはりパイオニア的存在です。
ちなみに既存の電力会社で原発へのスタートの早かった関西電力が福井県で、東京電力が福島県で沸騰水型軽水炉(BWR)の運転を開始したのは1971年3月ですから、原発に関する限り原電の後輩にあたります。東海第二原発にしても1978年11月に運転を開始していますから、ともかく原電は老舗と言えましょう。
原発専業の原電は3・11後、最初の東海原発は古くなって廃炉処分になっており、第二も停止中で業績は悪化していました。そこで2017(平成29)年11月24日に原電は、東海第二原発が18年11月で運転開始から40年になるのを前にして、20年の運転延長を申請します。原電は2014年に主な審査を終えており、これが認められれば40年を限度とするルールは形骸化するので、原子力規制委員会はBWRに新しい冷却装置の設置を義務付けますが、結局、2018年11月7日、運転期間の延長を認可します。しかし核燃料に関するデータには誤記載がありました。
水戸地裁(前田英子裁判長)は2021年3月18日、事故時の住民避難計画に不備があるとして東海第二原発の運転差し止めを命じました。30キロ圏内の人口は約94万人で国内最大であり、圏内に入る14市町村のうち広域避難計画を立てているのは5市町だけで、「人格権が侵害される危険がある」と判断したのです。
ところで敦賀原発では、もっとけしからぬことが起こっていました。この原発2号機は、原子炉建屋の直下に活断層があると指摘されていましたが、原電側は審査で断層の活動性を否定しようとしていたのです。これまでに敷地内で行われた掘削調査を巡る審査資料の記載を、原電が無断で書き換えていたことが発覚したのは2020年の2月。原電は「肉眼による地層の観察結果に基づく記載を、顕微鏡による観察結果による記載に変更」したもので、「特定の意図をもって変更したのではない」と説明。同年11月末の会合では、「記載と文書に関する認識が不十分だった」と述べていますが、これはどうみても意図的な文書の改竄(かいざん)としか言いようがありません。
市民科学者の高木仁三郎は『原発事故はなぜくりかえすのか』(岩波書店、2000年12月)の「隠蔽から改ざんへ」の章で、《技術にあってはならない改ざん》と述べていますが、原電がしてきたことはまさに改ざんです。
ここに至って原子力調査委員会は2020年12月14日、東京都台東区の原電本社の立ち入り調査をしました。そして2021年7月28日の定例会合で審査中断も考慮することにしましたが、冒頭で述べたように同年8月18日の定例会合で、再稼動の前提となる審査の中断を決めたのです。
これまでにも原電には、データ軽視が度々ありました。この姿勢が直らぬ限り議論の席に着かせることは出来ません。今回の原子力規制委員会の決定が新内閣によってブレルことのないよう、監視を続けましょう。
九電力たちの想いが生み出せる「原電」は原発のみの存在
暑さ寒さ資料書換えまたしても治ることなき欺瞞体質
改めよ!嘘は必ずバレルもの規制委さえも我慢しかねつ
(2021.12.16記)