連載文士刮目 第37回 どこへいく? 流転社会 伊神 権太(写真 最終意見陳述で証言台に立つ袴田さんの姉ひで子さんを報じた新聞)

 生成人工知能(生成AI)に電気自動車、SDV(次世代自動車)、貧困と飢餓防止・気候変動対策など17の持続可能な開発目標を掲げるSDGs。さらには最近では従来に比べたら処理性能を20倍アップするという生成AIに特化した新世代のパソコン、ほかに5月8日から11日にかけ7回発生した最大クラスの太陽フレア(磁気嵐)現象によるオーロラ発生……と、この世の中、このところどこもかしこも何もかもが、です。すさまじい勢いでめまぐるしく変転、様変わりしつつあります。
 そして一方では、AIやドローンを駆使しての相も変わらぬウクライナ戦争にイスラエルのガザ攻撃など。醜い戦争は一向におさまりそうにありません。ガザ攻撃ではベトナム反戦いらいの米国Z世代の大学生らによる反発も見逃せません。なんたること。一体全体、平和はどこに行ってしまったのでしょう。先のコロナ禍や能登半島地震(犠牲者は災害関連死30人を加え260人)に見られる日常生活から引き裂かれた乖離も見逃せず、今は普通の何げない平凡な生活の大切さが改めて見直されてもいます。

 一方で。日本に目を移せば、です。栃木の夫婦焼損(焼き殺し)に始まり、東北各地の山あいでの強奪凶悪犯などといったむごたらしく、かつ殺伐とした事件が続発、さらには焦点が定まらないまま迷走する政界の政治資金規正法の改正案審議と相も変わらぬドタバタ劇は一向に収まりそうにありません。私たち人間社会の科学技術が限りなく進歩していくなか、一体全体、人間にとって一番大切な健全な精神はあるのかないのか。それが分かりません。
 こうした世の中にあって。最近、ホッとしたことといえば、です。日米通算200勝の金字塔を成し遂げた米大リーグ、パドレスのダルビッシュ有投手(37)の快挙です。プロ野球ファンのだれもが晴れ晴れ、さわやかな気持ちになったに違いありません。事実、5月21日付中日スポーツによれば、ダルビッシュ投手はメジャーで107勝、日本で93勝をマーク。とうとう日米通算200勝を達成しましたが、この200勝は野茂英雄、黒田博樹に続く3人目 なのだそうです。日本のみでの200勝以上達成投手は24人なので計27人になりますが、全ての白星を先発のみで挙げたのは、ダルビッシュ投手が初めてとのことです。

ダルビッシュ有投手の200勝達成を報じた中日スポーツ1面


 というわけで、人生にはいろいろあります。でも、そうした中にあって変わらないものがあります。それは、何でしょう。言わずもがな、ではありますが人間社会の誰にも共通した人を思う心、中でも「母の愛」ではないでしょうか。5月12日は、誰にとってもかけがえのない「母の日」でした。母が子を思い、子が母を思う。どうかすると利己的になりがちな社会にあってこんな当たり前のことを大切にすることは当然なことです。互いを思いやる心を忘れさえしなければ。社会はもっともっと健全かつ幸せなものに進化していくと思うのです。

 そして。母といえば、です。1966年6月30日に静岡県清水市(現静岡市)で起きた一家4人殺人事件のその後ですが、死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審公判が5月22日に静岡地裁で開廷され、検察側は半世紀以上前に開かれた確定前の一審と同様、極刑が相当と主張。これに対して、証言台に立った袴田さんの姉ひで子さん(91)は獄中から袴田さんが母や息子を気遣ってしたためた手紙を読み上げましたが、その内容は次のようなものでした。
 ―「今朝方母さんの、夢を見ました。元気でした。夢のように元気でおられたらうれしいですが、お母さん、遠からず真実を立証して帰りますからね」とー。
 この手紙から判断する限り、袴田さんが母を思う気持ちには無実を訴えてやまない、強い意志があります。〝心〟は「コロコロ変わるから、こう呼ばれる」とも言われますが、袴田さんに限って言えば、母を思う心に何ら変わりはないとおもうのです。
 社会そのものが自分勝手な人々により醜く変容していく中にあって、私たちすべての人々のなかには袴田さんのように母を思う強い気持ちがあることに今一度思いをはせたく思うきょうこのごろです。実際、こんな当たり前のことこそ、世界共通、いや人類の叡智ではないでしょうか。

(2024/6/7)

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