連載文士刮目 第27回  「最後の一滴まで」。原発処理水の海洋放出や、いかに 伊神 権太(アイキャッチ画像:「住民説明・意見交換会で「他に方法はないのか」と詰め寄る市民)

 

 

 7月12日。東京八王子市で記録したこの夏のその日までの段階での全国最高の暑さは、39.1度。各メディアとも危険な暑さだ、と警告。これより1日前の7月11日には全国57地点で猛暑日を記録。この日は、東北から九州の広い範囲で気温が上昇。気象庁が熱中症警戒アラートを20道県に発令。山梨県甲州市の38.0度を最高に群馬県桐生市37.1度、静岡市駿河区36.9度、高知県四万十市36.3度といったニュースが飛び交うなか、同じ日の朝刊で【SDGs遅れ 国連「危機的」 ウクライナ侵攻 気象災害など妨げに】(毎日新聞、12日付)の活字が目に飛び込んできました。一体全体、この世の中、どうなってしまうのでしょう。
 この記事、国連が7月10日に各国が2030年までの達成を目指す持続可能な開発目標(SDGs)の進捗の遅れが「危機的」だとする報告書を発表した、というのです。そして私の頭にはなぜか、同じ日の同じ新聞の1面コラム【余録】に書かれていた元英国首相チャーチルの警句「良心を持たない国家は魂のない国家である」の文が浮かんできたのです。と同時に今後どうなるか、が心配される福島第一原発事故の汚水処理問題がなぜか、頭にからみついて離れません。汚水処理水放流にあたって、まず必要とされ、何より望まれるのは、地元漁民に対する良心ではないかーとの考えがわが頭を旋回してきたのです。政府は地元に対して誠意を尽くした放流が本当に出来るのか、と。そんな思いが大きくわが脳裏に浮上したのも偽らざる心境です。

 その処理水問題ですが。国際原子力機関(IAEA)が7月4日、東電福島第一原発事故の処理水の海洋放出を巡り「放出計画は国際的な安全基準に合致する」との包括報告書を公表。計画通りの段階的な放出であれば、人や環境への放射線の影響は「無視できるほどごくわずかだ」との評価を与え、グロッシ事務局長は都内で記者会見し「包括的で中立的、科学的な評価が必要だが、そのことに自信を持っている」とも強調しました。でも、本当に大丈夫なのか。私の脳裏には、どこまでも【不安】の二字が大きく駆け巡るのです。

原子力規制委員会の処理水放出「合格」を報じた新聞記事と処理水放出に向けての流れ

 では、地元の人たちはどう思っているのでしょう。

 この点について7月10日付の中日新聞は【福島第一処理水海洋放出 住民「他に方法はないのか」 国と東電の説明会「漁業者との約束を守って」】との紙面を展開、問題点を洗い出しています。具体的には「流す放射性物質の総量はどれくらいか」「福島の復興を妨げず、風評や実害を拡大させないためには長期の陸上保管という意見もあるが、国や東電も場所があれば同じ気持ちか。また中間貯蔵施設の敷地は使えないものか」「福島は原子力緊急事態宣言が出たまま。(一般人の被ばく許容量の20倍の)年間20ミリシーベルトで我慢しろと言っておきながら、ここでは法律を持ち出して我慢せよと言うのか。私たちの身になってほしい」など核心を突いた質問に対して資源エネルギー庁と東電側は次のように返答しています。
「国際原子力機関の報告書にあるが、人や環境に与える影響は無視できるほど小さい」(資源エネルギー庁・木野正登参事官)「廃炉に向け、より安全な状態で溶けた燃料を取り出すには敷地がいる。敷地確保のために海洋放出してタンクを撤去する必要がある」(東電福島第一廃炉推進カンパニー・木元嵩宏氏)と。これに対して地元の片岡輝美さん(62)は「漁業者、市民抜きで放出を勝手に決めないでほしい。計画を中止し市民を含めた幅広い立場でオープンな協議をし、性急な結論を出さないことを求めます」と訴えた、とありますが、この先はさてどうなるのか。

 こうした中にあって、この世では、ほかにも生成AI(人工知能)のリポート丸写し、コロナ補助金の不正納入など。「悪」にまみれた黒い手が至る所、のさばっています。私たちは今こそ胸に手を当て真剣に考えるときではないでしょうか。
 IAEAのグロッシ―事務局長は報告書を公表した際、第1原発に職員を常駐させ「最後の一滴まで」監視する、と表明しましたが、処理水の放流がこんごどうなるのか。日本国民は、固唾をのんでその成りゆきを見守っているのです。さてさて。どうなる、処理水。世界の目が注がれていることを日本政府と東電関係者はお忘れなく。より安全で平和な社会実現のためにも、です。(2023/8/3)

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