隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第2回 西尾漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:GX実行会議の「GX 実現に向けた基本方針 ~今後 10 年を見据えたロードマップ~」が発表されたね。「原発“最大限活用”へ政策大転換」とかの大見出しが踊っていたけど、原発についての記述は少ないんだね。26ページ中1ページしかない。
β:原発推進のための基本方針じゃないって印象付けたいのかな。中身としては前回も見たとおりのもので、経産省がまとめて原子力関係閣僚会議のお墨付きをもらった「今後の原子力政策の方向性と行動指針」が詳しい。
γ:GX基本方針は、涙ぐましいくらいに世論に気を使っているね。「福島復興はエネルギー政策を進める上での原点であることを踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉や帰還困難区域の避難指示解除、福島イノベーション・コースト構想による新産業の創出、事業・なりわいの再建など、最後まで福島の復興・再生に全力で取り組む。その上で、原子力の利用に当たっては、事故への反省と教訓を一時も忘れず、安全神話に陥ることなく安全性を最優先とすることが大前提となる」そうだ。
β:「安定供給とカーボンニュートラル実現の両立に向け、脱炭素のベースロード電源としての重要な役割を担う」っていうのは、明らかな嘘だけど。
α:「将来にわたって持続的に原子力を活用する」って、新増設もしますってことだよね。
γ:福井県の美浜原発に4号機をなんて話が盛んに流されている。マスメディアを通じた世論操作だ。関西電力も歓迎のように報じられている。でもそう簡単には進められないよ。
β:『はんげんぱつ新聞』の新年号で龍谷大学の大島堅一教授が言っている。「建設費がすごく上がっている。欧米では2倍とか3倍とかになっていて、事業自体が成り立たない。もう一つの理由は、電力自由化になって電力価格が変動するから40年とか60年とか長期にわたって費用回収する見込みが立たない。ふつうに考えれば原発は建たない」。そこで「事業環境整備」と称して救済措置が検討されている。相変わらずの「原発介護プラン」(吉岡斉)だね。
γ:原子力ムラの中からも、それは安易に過ぎるという声が出ている。2022年12月14日付電気新聞の「オピニオン」という匿名コラム欄だ。「新増設の成否を左右するのは『事業環境整備』だけではなく、事業者のマネジメント能力もだ。あたかも支援制度があればもう安心、なければ新増設など不可能、と受け取られかねない主張はほどほどにしていただきたい」。
α:そのマネジメント能力がない。
β:先の大島教授は「事業環境整備をしてやるから原発を続けなさいというんだけど、いったん衰退し始めた産業は国家によってすら維持できないんですよ」と言っていた。脱原発ネットワーク・九州の深江守代表が続けて「電力会社のほうも再稼働とか新増設とかかんべんしてくれと内心では思っているんじゃないかな」って。
α:税金でか電気料金でかわからないけど、事業環境整備をさせられる側からは本当にかんべんしてほしい。寿命延長もだ。原子力規制庁が経済産業省の資源エネルギー庁と原子力規制委員会にも内緒で事前調整をしていたんだって。
β:内部通報者から資料を入手した原子力資料情報室が暴露した。2022年7月 27 日の第1回GX実行会議で岸田首相から原発再稼働等の政治決断が必要な項目を示すよう指示があった翌日には、規制庁の原子力規制課長と資源エネルギー庁の原子力基盤室長とで第1回の面談に入っている。その場で、規制委が所管する原子炉等規制法をふくむ法「改正」の検討を経産省が開始したことが伝達されているんだ。以後、9月28日の規制委の指示で委員会での説明を要請したものを含め計7回の面談が両者でおこなわれていた。
γ:それとは別に8月30日、規制庁の法令審査室が環境省に状況説明をおこなっていて、資料には「今後、経産省とも調整・検討。規制庁内は当面、4名程度のコアメンバーで立案作業に着手」と書かれていた。9月1日には、そのための人事異動まで原子力規制庁長官の専決で発令している。
α:そうした経緯を規制庁は、更田豊志前委員長にも、9月26日に替わった山中伸介委員長にもまったく伝えていなかったというんだね。
β:9月28日の山中委員長初の定例委員会で、さっそくエネ庁から話を聞こうと指示している。その時も規制庁側は既に事前調整をしていたと報告していない。規制庁に言わせれば事前調整でなく情報交換だけどね。
γ:記者ブリーフィングで総務課長は、報告はしなくても「意思疎通、情報のやり取りをしていることは理解されていると考えます」と妙な言いわけをしていた。山中委員長は記者会見で「何らかの準備、あるいは頭の体操をしていたというふうには想像いたします」。何が問題なのかもわかっていないのが情けない。
α:規制委員会と規制庁の関係はおかしなことばかりだね。
β:委員会が検討を指示して、規制庁が案をつくって、それがそのまま規制委員会決定になる。更田委員長の時はそうでないこともあったけれど。
γ:9月21日の最後の記者会見でこう言っていた。「規制委員会の役割で一番難しいのは、規制庁の追認機関にならないことなのですよ」。その危惧が早くも現われた格好だね。

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