連載文士刮目 第30回 この世の中、み~んな平和な社会を願って生きている 伊神 権太(写真:パレスチナの俳人リタ・オデさんがガザの惨状を詠んだ英語俳句を寄せた(10月18日付中日新聞))

 

Gaza`s child -
looking for her doll
among the ruins
(人形を探す瓦礫の子の哀し)
=10月18日付中日新聞朝刊

 文士刮目も今回が30回。我ながら、よくぞ、ここまで続いたものだなと思っている。当初はまだ健在だった亡き妻(伊神舞子)の助言を再三受け執筆。書き終えるつど、彼女に最初の読者とデスクになってもらい思うところを指摘してもらったものだ。そして。同じく黄泉の国に旅立ってしまわれた「脱原発社会をめざす文学者の会」初代事務局長山本源一さん命名によるタイトル【文士刮目】を汚すものであってはならない、と自らに言い聞かせ毎回、書き続けてきたこれまでの日々を忘れるわけにはいかない。車を運転していても電車に乗っていても会話をしていても何をしていても、次の文士刮目は何を書くかで、頭のなかはいっぱいである(今もだが)。

 そんなわけで、今回は何にしようか。大事件や大事故、大災害の現場に踏み込んだ若きころの記者体験の中から社会に役立つものを書こうか、それとも各地でめぐりあった多くの人々の残した言葉にしようかーなど思案に暮れる日々でしたが、そこに降ってわいたのが、イスラエルとイスラム組織ハマスによる戦闘激化です。なんと10月17日にはガザの病院がイスラエル軍の空爆を受け、その後【ガザ病院爆発「471人死亡」】とも伝えられました。これでは不幸の連鎖で、ロシアのウクライナ侵攻と何ら変わりなく、この悲劇はなんとしても終息してほしい、この思いは平和を願う人なら、世界中だれとて同じかと思うのです。
 というわけで、朝刊(10月18日付)を読んでいて、目に飛び込んだのが冒頭のパレスチナ俳人リタ・オデさんの非戦と平和を願った英語俳句だったのです。

 そして今回は、将棋の藤井聡太さん(21)の八冠=竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将・棋聖・王座、愛知県瀬戸市=達成時の言葉にもふれざるをえません。八冠の全冠を手にした彼の言葉は「将棋は必ず勝ち負けがつく勝負ですが、ゲームでもある。純粋に局面を考えるのを楽しめれば」「本当に苦しいシリーズで中盤で差をつけられる将棋が多かった。ここ1、2年はタイトル戦の結果は良かったが(八冠に)見合った力があるかと言えばまだまだ。実力を付ける必要がある」「苦しい将棋で(勝ったのは)幸運だったと思っている」などといった謙虚なものです。そればかりか、この向上の精神は多くの将棋ファンどころか、日本国民のだれもが感動したに違いありません。ここで私が力説したいのは、藤井さんのことばの持つ力、ことばの大切さなのです。どの人にもその人ならでは、の心に染み入る言葉はありますが、藤井八冠の声は特に大切にしなければ、と思った次第です。

藤井さんの八冠独占を報じた新聞の号外

 言葉と言えば、です。かつて能登半島で新聞社の七尾支局長として記者生活をしていたころ、地元七尾青年会議所と新聞社共催で<海を感じる心を>発信しようーと、国内外に【海の詩(うた)】を公募したことがあります。あのとき初代審査委員長としてお世話になった、加藤省吾さん=「かわいい魚屋さん」「みかんの花咲く丘」「紅孔雀」などの作詞者=の、あのやわらかなことばをなぜか、思い出します。私に対して彼は心穏やかにこう話されたのです。「イガミさん。あなたの言うことはよく分かります。でも。そう、カリカリしなさんな。この世の中、み~んな、誰だって。懸命に生きている。悪い人なんかは誰ひとりとしていませんよ。み~んな、平和な社会を願って一生懸命に生きておいでのはずです」と。

 私の頭からは、あの時の省吾さんのおことばが今も耳を離れません。一方でこのところ世界各地で相次ぐ戦争の悲劇には「み~んな、平和な世界を願っているはずなのに。あ~あ」と思わずため息が出てしまうのです。と同時に私の頭の中を現役記者時代に何度もかみしめた【真実、公正、進歩的】さらには【広く聴き 深く考え 強く闘う】の言葉が旋回するのは、なぜなのでしょう。
 これらの言葉を生かせば、戦争などは起こらない。世界の平和は保たれるはずです。みんな仲良くしなければ。(了)

(2023/11/3)

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