隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第8回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:2024年元日の夕方から能登半島で大きな地震が続いている。洪水も起き、被害は甚大だ。多くの命が奪われ、家や仕事の基盤や思いのこもった品々やをなくした。
 震度7を記録した石川県志賀町には北陸電力の志賀原発があるけど、原子炉は2基とも停止中だったんだよね。
β:2011年3月11日の東日本大震災のときから止まったままだった。
 幸い地震による大きな事故にはならなかったけれど、使用済み燃料プールから水があふれ出たり、冷却ポンプが一時停止したり、そのプールに検査機器の一部が落下したり、変圧器の配管が壊れて絶縁や冷却のための油が漏れ、一部の機器が使えなくなったりした。使用済み燃料プールでは予備電源に切り替えて冷却をしている。防潮堤が傾いたり、金属製のシールカバーが脱落したり、純水タンクで漏れがあったりと、いろいろあった。
 問題なのは、油の漏れが約100リットルとまず発表され、それが1号機側で3,600リットル、2号機側で3,500リットル、さらに計19,800リットルと修正されたり、堰内に収まっていると言っていたのが2号機側では海に流出して油膜が確認されたとされたり、2号機取水槽の水位が「変動なし」から「一時3m上昇」と訂正されたりと、情報が混乱したことだ。それも、始めはともかく影響が小さくみせようとの考えが透けて見える。より大きなトラブルが起きたときにそんな考えでいたら、事故を拡大しかねない。
γ:能登半島では、珠洲市にも原発の計画があった。20年前の2003年12月に共同で市内2ヵ所に建設計画を進めていた関西・中部・北陸の3電力が凍結を発表して、けっきょく幻の計画となった。反対運動で止められていなかったら、それこそ直下の震源で大地震が起きていたかもしれない。
α:珠洲市を中心に能登半島では以前から群発地震が続いていたと報じられている。2023年にも珠洲市で震度6強の地震があった。大きな地震が起きることはわかっていたんじゃないの。
β:前々からはっきり警告され続けてきた。でも、原子力規制委員会の審査なんかでは、今回の地震を引き起こした活断層は想定されていなかった。というか、知られていない活断層はいくらでもあるし、地下で大地震が繰り返されても活断層が生じないこともある。探査が難しくて調べられていない沿岸海域の活断層の認定も必要だし、他方で、活断層がなくても地震は起こることをちゃんと考えなくちゃいけない。地震列島に原発は、そもそも成り立たないんだよ。
γ:道路の状況を見ても、行政の対応を見ても、改めて「原発震災」の怖さがわかる。仮に原発で重大事故が起きて放射能が環境に放出されたら、地震の後での避難は困難を極めるだろう。また、放射能災害が震災の救援・復旧を妨げることになる。
α:地震は止められないけど、「原発震災」は原発を止めることで防げる。それなのに「原発回帰」なんて、どうかしているね。
β:原子力ムラは世論の風向きが再び変わるのを気にしている。1月7日の産経新聞にいわく「能登半島周辺は今も余震が続いており、住民の不安は尽きない。特に柏崎刈羽原発については、原子力規制委員会が昨年末に事実上の運転禁止命令を解除したばかりだが、今回の地震をきっかけに再稼働に向けた地元合意のハードルが上がる可能性がある。そうなれば、首都圏への電力安定供給や脱炭素電源として原発を活用するエネルギー政策にも影響しかねない」。
γ:今年は、エネルギー基本計画の改定が予定されている。いままで書き込めなかった原発の新増設を明記させようというのが原子力ムラの総意だそうだ。それがどう転ぶか。
α:世界の原発設備容量を50年までに20年比で3倍に増やす宣言なんてのが記事になっていたけど。
β:言い出しっぺのアメリカでも追随したフランスや日本でも自分のところでは増やしようもなくて、原子力資料情報室の12月5日の声明は「人のふんどしで相撲を取る原子力業界」と揶揄していた。新増設の明記も、そう書き込んだところで実際に新増設が進む保証はまったくない。国のよほどの援助がなくては、電力会社としては手が出せないものね。
γ:24年度の政府予算案を見ると確かに原子力にはこれまで以上の大盤振る舞いだが、高速炉や高温ガス炉にGX推進対策費として多額の予算が計上されているなんて、およそ商用化は見込めないとんちんかんぶりな無駄遣いでしかない。怪しげなブームに乗って核融合予算がふくらんだのもご同様。原子力ムラの大幹部である松浦祥次郎原子力安全研究協会理事長・元日本原子力研究開発機構理事長までもが2023年10月18日付電気新聞で、こう冷水を浴びせていた。「核分裂炉でかなり辛苦を経験した技術者達には、現在起きている公的事業及び民間事業の核融合炉推進高揚感が工学的・技術的視点から全く理解できない。実用を計画するには、開発上の不可避的ギャップを完全に克服できる決定的な工学的・技術的イノベーションの達成が不可欠である」ってね。
α:実際の新増設にはつながらない夢物語しか動いていないんだ。
β:SMR(小型モジュール炉)は、早くも予算案で軽視されている。日揮、IHI、国際協力銀行、中部電力が投資をしたアメリカのニュースケール・パワー社の初号機となる予定だったアイダホ州での建設計画は11月8日に中止が発表されたけど、もともと日本の電力各社は乗り気薄だった。
γ:六ヶ所再処理工場はじめ核燃料サイクル計画も、ただただ延期を繰り返すのみ。それが原発回帰の舞台裏さ。

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