関電の黒いもろもろ ①美浜原発

 前回は福井県内にある日本原電源について述べましたが、福井県内には関西電力の原発が三カ所に立地しています。美浜、大飯、高浜の三カ所で、商業運転を始めたのは美浜  が最も早いく、1970年11月28日です。三つの中で早いだけではなく、日本の電力会社の中で最初の原子力発電所だったのです。
 これには関電(かんでん)こと関西電力株式会社自体のことを、いくらか述べておく必要がありそうです。この会社の他の略称にはKEPCO(Kansai Electric Power Co.Inc.=ケプコ)もありますが、これはまあ納得できるとしても関配(かんぱい)という妙な名前で呼ぶ人もあります。これは一体、何なのでしょうか?
 戦前、西日本(主として近畿地方)各地に在った電灯会社・電鉄会社・電気会社・電力会社などは戦争末期に統廃合され、半官半民のトラストである日本発送電や関西配電(関配)が設立されました。それが戦後、電気事業再編成審議会委員長の松永安左エ門がGHQを説得し、関配と日本発送電を再編し関西電力を設立したのです。
 ところが関電 ≑ 関配は戦前に、近畿地方を拠点にしながらも全国展開していた大同電力・宇治川電気・日本電力・東邦電力などの流れを汲み、資産を継承していたので、近畿以外の地方に発電所などの設備をたくさん持っているという特徴があります。本来なら別エリアであるはずの富山県の黒部川流域にも大型の水力発電所を持っています。殉職者174人を出した黒四(くろよん)ダム、黒部川第四発電所の名をご記憶の方は少なくないでしょう。
 そうした背景を持つ関電の社長・会長は、想像以上の権力を持っているようです。関西経済連合会会長の座にしばしば就任してきましたし、元会長が10億円の退職金を受け取っていたことも記憶に留めておくべきことです。競争市場で勝ち抜き大きな利益を得たのなら、いくら貰おうと許されるかもしれませんが、独占を前提とした公共料金で成り立っている企業が勝手に巨額の退職金を出すなんて、東電の場合もですけど, 税金を出したくなくなりますよ。しかも関電は原子力発電の割合が約半分と言われているのです。もちろん全国一です。
 さてそのトップランナーの美浜原発は福井県三方(みかた)郡美浜(みはま)町丹生(にゅう)にあります。東西に長い福井県のほぼ中央に北へ伸びる小さな突起・敦賀半島の西半分の突先近くに立地しており、三方郡の南は滋賀県で北は若狭湾です。鎌倉時代の元寇の際には敦賀半島のあたりも荒らされたとの説もありますが、敦賀港は第二次大戦中に杉原千畝が命のビザを発給して救ったユダヤ人が上陸した唯一の港でした。
 1~2号機は既に廃炉が決定しましたので3号機について述べますと、関電はいずれも加圧水型軽水炉で、出力は82・6万キロワットです。3・11の福島原発災の後、初めて再稼動したのはこの3号機でしたが、美浜の原発事故は、早くも2004年8月9日に3号機で発生しました。配管破損事故で5人が死亡しています。また11年には美浜町などで、原発建設で生じた金属屑を実勢価格より安い値段で地元業者に売却したことが判明。関電の原発関連不祥事は枚挙に遑(いとま)がないほどですが、これは若狭湾沿岸に限ったことでしょうか。
 関電としては最初から、福井県の若狭湾沿岸だけに絞って開発をすすめたわけではありません。石川県の能登半島北端にある珠洲(すず)市では、北陸電力や中部電力との共同運営が予定されていましたが、2003年に計画が凍結されました。京都府熊野郡久美浜町(現・丹後市)は京都市に近いという難点のためか、06年に計画中止になっています。和歌山県には候補地が少なくとも二カ所はありました。日高郡日高町と西牟婁(むろ)郡日置川町(現・白浜町)で、どちらも2005年に中止となっています。竹本賢三の原発小説集『蘇鉄のある風景』(2011年)には、原発反対運動がたくさん描かれており、和歌山県ではかなりの抵抗が試みられたようです。だとすれば福井県の若狭湾沿岸の場合は、受け入れの意見もかなりつよかった強かった、と言えるのかもしれません。
 私が混成詩「異説日本暗黒神話」(『SF詩群』2021年度版)で描いた敦賀市鉢伏山=高天原、三方郡梅丈岳=高千穂の峰という異説は、友田吉之助教授の『天孫降臨の原義』に依ったもので、若狭の三原発には特殊なムードが感じられますが、次は大飯原発へ寄ってみましょう。

  三方郡に高千穂を観る説もあり大和神話はすべてに非ず
  テロ・戦(いくさ)いずれにしても争乱は極めて危険ゲンパツ施設
                     (2022年1月26日・記)

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