第11回 プーチンの「精力善用 自他共栄」とは

 皆さま。講道館の創始者・嘉納治五郎の言葉【精力善用 自他共栄】」をご存知でしょうか。精力善用は「心身の持つすべての力を最大限に生かして社会のために善い方向に用いる精神」を、そして自他共栄は「相手に対し敬い感謝することで信頼し合い、助け合う心を育み、自分だけでなく他人と共に栄えある世の中にしようとする」、そんな人間としての姿勢で治五郎が自ら体現してみせた言葉です。私自身、ロシア大統領のプーチン氏(名誉六段)と同じように柔道に励んだ一人として今ウクライナで卑劣極まる侵攻を進めてきたプーチン大統領に、この精神をどう思っているのかを聴きたいのです。なぜか。それはプーチンという人物が私と同じ柔道を学びながら、この【精力善用 自他共栄】の心を踏みにじり<柔の道>を台無しにしたからです。

 先日、ウクライナへの軍事侵攻を巡ってロシアの政府系テレビでニュース番組の放映中に職員の女性が突然、反戦の紙を掲げてスタジオに入ってきて「戦争をやめて」と訴えました。女性はマリーナ・オフシャンニコワさんで、ソ連時代から続く看板ニュース番組「プレーミャ」でアナウンサーの背後に現れ「戦争反対」「プロパガンダ(政治宣伝)を信じるな」などと書かれた紙を掲げ、政府統制下にあるロシアメディア界では異例の抗議となり、世界に大きな衝撃が走りました(ロシア捜査当局は偽情報を流布した疑いで女性を訴追)。私は勇気ある行動だと思います。

 さて。そのロシアによるウクライナ侵攻は3月24日で一カ月がたち、この間、多くの人々が祖国を逃れ、実に四百万人超が難民となって国外に避難。この間には病院から芸術劇場まであらゆるものが爆撃され、多くの市民が命を奪われ、遺体は穴を掘って埋めても追いつかないと聞きます。あるニュースは東部マリウポリでの九十六歳の男性の死に触れ、ヒトラーすなわちホロコーストからの生き残りだった彼が、今度はプーチンにより殺された、と断言。こんなに悲しいことが許されてよいのでしょうか。

 話はかわります。私が以前、在任した石川県能登半島に伝わる言葉に【能登はやさしや土までも】と言う一節があります。能登の女性は一度ほれ込んだ男のためなら自身のお腹を金槌でたたき割り堕胎してでもついてくるという意味も込められ、転じて【能登はやさしや人殺し】ともいわれます。そこで私は思うのです。プーチンのような男を隣国・ウクライナの女性たちはどんな思いで見ているのか、と。私自身、終戦直後に不可侵条約を破って侵攻してきたロシア兵に追われ、満州の大地を母と逃げ回った紛れなき戦争胎児感覚の体験者だけに、プーチンの戦争は許せないのです。先日大相撲で初優勝した福島出身力士の若隆景は「被災地のためボクの出来ることは相撲で活躍することです」と語りました。プーチンさん、あなたの出来ることは世界のリーダーとして「戦争のない平和な社会にすること」ではなかったですか? (2022/4/2)

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