第2回 汚染処理水の海洋投棄

 国連が掲げる持続可能な開発目標SDGs(エス・ディー・ジーズ)に沿った幸せな社会。これからを生きる私たちに必要なもの。それは美しい空と山、海、川に囲まれた環境に違いありません。あぁ~、それなのに、です。3・11東日本大震災の発生と同時に起きた福島第一原発事故のその後はといえば、です。除染廃棄物が詰まった黒いフレコンバッグの一方で、行き当たりばったりで進んできた使用済み核燃料プールから出る汚染処理水を貯蔵するための1000基を超えるタンク建設など。とても復興への道とはいえません。むしろ悪化の一途を辿っている現実があるのです。
 その代表が、原発事故発生に伴って今も増え続ける放射能を含んだ汚染処理水をどうするかで、これらの海洋投棄が深刻な問題となっています。日本政府は、この4月に大震災で破壊された東電福島第一原子力発電所から排出されている放射性物質トリチウムなどが含まれた100万㌧以上の汚染処理水を福島県沖の太平洋に放出する計画を承認。これには地元漁協が真っ向から反対。この先、風評被害も併せて、どうなるかが心配です。

 もう何十年も昔の話です。昭和40年代に当時の田中角栄首相が日本列島改造論を提唱したことがあります。私は新聞社の松本支局のサツ回り。駆け出しで山岳遭難取材や連合赤軍による「あさま山荘事件」の取材などに飛び回ったあと、三重県志摩半島に転任。〝角さん〟の列島改造論、真っ盛りのころで志摩半島も乱開発のただ中にありました。作家山崎豊子さんが志摩観光ホテルの一室で「華麗なる一族」を執筆していたころですが、取材の道すがら美しかったリアス式海岸が次々と醜く姿を変えていく状況を目の当たりに、ふたりで海を目の前に嘆いたりもしたものでした。
 実際、真珠の海・英虞湾は乱開発と垂れ流しに伴う富栄養化が進み、ギムノディニウムという異常なプランクトンによる悪性赤潮が発生、核入れ母貝(アコヤガイ)がプカプカと浮く大量死が起き、小舟をチャーターしての連日取材が、きのうのようでもあります。放射能の汚染処理水と真珠ヘドロ堆積に伴う悪性赤潮。形こそ違いますが自然を壊すことでは同じです。当時は有吉佐和子さんが新聞の連載小説で指摘していた複合汚染が社会問題化。あの日々が思い出されて仕方ありません。

 ところで汚染水ですが、日本政府はことし4月13日、東日本大震災で破壊された東京電力福島第一原子力発電所から排出されている放射性物質を含む100万㌧以上の処理済みの汚染水を福島県沖の太平洋に放出する計画を承認しました。この水は同原発の核燃料を冷却するために使用されているもので、飲料水と同じ放射能レベルまで希釈してから放出予定で二年後から始まって完了までに数十年はかかるそうです。地元漁業団体に加え、中国や韓国などもこの計画には反対しています。本当に大丈夫なのでしょうか。人間の叡智とは何か。それが試されている気がしてならないのです。(2021/7/1)

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