隔月連載 げんぱつあくぎょうはなし 第6回 西尾 漠 (アイキャッチ画像撮影=片岡遼平)

α:8月24日に、とうとう福島事故の汚染水海洋放出が始まってしまった。
β:「汚染水」じゃなく「ALPS[多核種除去設備]処理水」だと政府や東京電力は言い張っている。前回も言ったけど、マスメディアでは2021年4月の政府による放出方針決定以来、「汚染水」という言葉が使えなくなった。
γ:「汚染水」と呼ぶのは「フェイク」なんだそうだ。どの辞書で「汚染」を見ても、一定程度以下なら「汚染」と呼ばないとは定義されてない。「フェイク」と決めつけることこそ「フェイク」だよ。
α:福島県漁連は「最後の一滴まで反対」と繰り返し言っている。「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という漁業者との約束はどこに行ったんだろう。
β:地元紙の福島民報が「漁業者反対の中――処理水“強行放出”」(8月27日付)と書いてるのに、「国は約束を果たし続けている」って西村康稔経産大臣は強弁するんだ。どの口が言うのかと思うよね。
γ:9月3日付北海道新聞の「記者の視点」で関口裕士編集委員は「政府は必ずしも約束を守らない。そのことを肝に銘じようと思った」と書き出している。「道内で調査が行われている高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分地選定を巡っても、約束がほごにされることを想定しておく必要がある」と。
 岸田文雄首相は8月22日の廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議で「今後、数十年の長期にわたろうとも処理水の処分が完了するまで政府として責任を持って取り組む」と述べたそうだが、「8年前の約束さえほごにする政府が数十年先まで責任を負えるはずがない」と関口編集委員は言い切っている。
α:8月27日付朝日新聞の「天声人語」も、沖縄と重ねてこう書いていた。「約束を果たさずにわびもしない。そんな首相に、被災地の漁業の将来について『全責任をもって対応する』と力まれても、信じられるはずがない」って。
β:8月22日付東京新聞。「汚染水の発生そのものを止める手立てはなく」って、この「汚染水」は処理前だから誰にも文句はつけられない。それはともかく汚染水はこれからも毎日生まれ続けるわけで「2051年とされる廃炉の目標を超えても、放出が続く可能性がある」と指摘している。そもそも2051年に廃炉が完了するわけもないけど。
γ:中間貯蔵施設に貯めている除染土などを30年以内に県外に搬出するという約束も法律に明記したといっても、多くの県民は信じていない。政府の約束は、何もかも鴻毛より軽しだね。
β:政府より軽いのが電力会社の約束かな。関係者の理解は得られたのかという記者質問に東京電力の責任者らは皆、「政府から『関係者の一定のご理解を得た』という判断が示された」とまったく同じ答えだ。
α:電力会社の約束と言えば、今年中に福井県外の中間貯蔵施設候補地を確定できないときは40年超運転の高浜原発1、2号機、美浜原発3号機の運転を停止するという関西電力の約束はどうなるのかな。
β:ごく一部をフランスに送る計画があって「福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と同等の意義がある」と強弁しているって話を前回にしたよね。それも変な話だったけど、今度は、山口県上関町の上関原発計画地に使用済み燃料中間貯蔵施設の建設が可能か調査をさせてほしいと8月2日、中国電力が町に申し入れた。「当社と同様に中間貯蔵施設のニーズがある関西電力株式会社との共同開発を前提に」って言ってるけど、中間貯蔵施設を欲しているのは関西電力で、中国電力じゃない。
γ:『エネルギーフォーラム』9月号によれば、中国電の大瀬戸聡常務は「当社側から関西電力に提案した」と経緯を説明したという。大手電力関係者とやらの見方が、こう紹介されていた。「カルテルでは巨額の課徴金処分を食らったが、中間貯蔵で関電側が相応の負担をしてくれれば、痛み分けで両社の関係も改善されるのでは」。
β:18日の臨時町議会が終わるやいなや、上関町の西哲夫町長は、賛否の意見を聞いたとして受け入れの回答ファックスを中国電力に送った。もともと町長のほうから、町づくりのための財源確保につながる新たな地域振興策をと要請したのに対する回答としての中国電力の提案だから、断るはずもない。上関原発計画の先行き不透明に苛立つ町内の推進派をなだめる点では、関西電力に恩を売ることとともに、中国電力にもメリットはある。
 しかししょせんはその場しのぎ。両電力にとっても町にとっても、仮に前進できたところで課題は残り続ける。
α:汚染水の話に戻るけど、福島県の内堀雅雄知事のコメントも情けないね。東京電力には「全社を挙げて万全な対策を徹底的に講じるよう求めます」、国には「今後数十年の長期にわたろうとも、最後まで全責任を全うしてください」って、相手の言ったことをオウム返しにしてるだけだよ。
 汚染水対策も使用済み燃料対策も、みんなその場しのぎの結果で事態を悪化させながら、さらにその場しのぎの無責任を続けようという。根本的な政策転換が必要だ。

関連記事

最近の記事new

  1. 報告 たどり着いた街で~東日本大震災追悼式 野武 由佳璃

  2. 連載 原発の蔭と影第18回 中国電力出発 天瀬 裕康

  3. 反原発詩抄 その4 (読人不知)

TOP